貴重な戦力である専門職種の障害による離職を防止できる

「国家資格を持っている障害者を捜しているが、なかなか見つからない」というのは、障害者雇用に消極的な医療機関が良く使う言い訳ですが、実際に国家資格を持っている障害者が現れた時、その者を受け入れる用意ができているかどうかは疑問でしょう。それ以前の問題として、現に雇用している医師や看護師などの医療スタッフが病気や怪我により障害のある状態になるリスクについて、あまり意識もされていないようです。

障害は先天的なものだけでなく、様々な疾病や事故に起因するものも多くあります。身近なものとしては、脳卒中や心疾患、糖尿病、がん、外傷、更にはうつ病等のメンタルな疾患でも、障害のある状態になることがあります。そのように病気や怪我の治療のため休職した医療スタッフが職場復帰する際、職場は受け入れるだけの環境になっているでしょうか。

障害の種類や程度が異なれば、仕事への支障の生じ方も異なってきます。例えば、医師が下肢障害で車いすを使う状態になったとしたら、診察室には入れても、手術を行うのは難しくなるでしょう。看護師が障害により患者さんを抱え上げることができなくなれば、直接的な身体看護を一人で行うことは難しくなるでしょう。従来は、こうした不都合があると、医師や看護師の業務は務まらないと判断されて、離職を余儀なくされる方も少なくありませんでした。

しかしながら、平成27年4月の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行と合わせて改正された障害者雇用促進法により、民間の医療機関を含む雇用事業者には、法的義務として「合理的配慮の提供」が求められるようになりました。「合理的配慮」の内容としては、ソフト面とハード面の両方の配慮が含まれます。ソフト面の配慮としては、本人の能力や経験を最大限活用できるように業務内容を見直し、配置部署の選択をすることもあります。外科系医師は手術ができなくても診察で能力を発揮できるでしょうし、看護師は医療相談などで患者さんの話を深く聴き、寄り添う看護を行うことも可能でしょう。ハード面の対応としては、障害が業務の支障とならないような施設・設備・機器等の面での工夫が求められます。このような「合理的配慮」についても、事業者に「過重な負担」となる配慮までは義務付けられていませんが、過重かどうかの判断は難しく、本人の意向を踏まえながら、可能な範囲でできるだけの配慮をすることが求められます。

具体的な事例に即してどのような配慮が効果的か、専門家の意見を聞くこともできます。地域障害者職業センターには、全国の数多くの事例に基づく豊富なノウハウが蓄積されています。相談すれば、障害の種別に即した具体的な対応方法を示してもらえるでしょう。また、地域障害者職業センターでは、うつ病の復職支援(リワーク)事業も行っていますので、うつ病で休職されている方の職場復帰に活用することもできるでしょう。

このように、医療機関で働いている医療スタッフが障害の状態になっても能力を活かせる職場環境づくりを進めれば、医療機関にとって貴重な戦力である専門職の離職を防止できるだけでなく、新たに障害のあるスタッフを雇用するのにも役立つでしょう。

(参考)職場のメンタルヘルス環境に及ぼす障害者雇用の効果