医療機関で障害者雇用を進める際に、担当者の皆さんから良く聞かれる質問について紹介するコーナーです。
Q:法定雇用率を満たすためには、事務部門だけでなく病院全体で障害者雇用に取り組む必要があるが、医療職からは「ただですら忙しいのに、障害者雇用でさらに負担が増える」と抵抗されそうだ。どうすれば医療職にも理解してもらえるか。
A:障害者を雇用してから院内で働く仕事を探す方法だと、医療現場からは押し付けられ感を持たれがちです。むしろ、医療職の負担を軽減する目的で、医療職でなくてもできる仕事を切り出す段階から医療職に参加してもらえれば、医療職の協力も得やすいでしょう。更に、医療職の幹部(看護部長、薬剤部長等)とともに、実際に障害者が医療現場で戦力として活躍している医療機関を視察すれば、より具体的なイメージを持てるでしょう。
Q:職員数の多い大規模な病院の場合、障害者雇用率達成に必要な人数も多くなるが、いきなり大量量の業務を切り出すことも難しいので、取組みを始めやすい人数の目安等はあるか。
A:ホームページで紹介している国立がん研究センター中央病院では、当初は5人の雇用から開始し、チームが安定して各部門から発注される業務が増えるのに伴い、雇用数を順次増やしていきました。雇用した者それぞれの特性も見ながら、ジョブコーチが指導のノウハウを習得していくには、スタート時は5人程度が適当かと思われます。比較的に余裕のある体制で始めて、各部門から仕事の受注を進め業務量を確保するとともに、翌年度の採用に向け職場実習を受け入れることで、段階的な雇用数の拡大を自信をもって進めることが可能となります。
Q:知的・精神障害者の業務内容について、病院側が依頼したい内容と本人が得意な分野が異なっている場合、どうしたらよいか。
A:障害者雇用においては、障害特性と業務内容のマッチングが重要ですが、新たに障害者雇用を行う場合には、雇用する障害者を先に決めるのではなく、業務内容を先に決めてから、その業務に適性のある障害者を募集して採用することが大切です。どのような業務内容にするかは、やってもらうと助かる業務の候補を現場から提案してもらい、就労支援機関に現場を見てもらった上で、障害のあるスタッフが担える業務を選定すると良いでしょう。こうして選定された業務を対象に採用募集を行い、事前の職場実習で適性を確認できた者を採用すれば、医療現場の負担が軽減できる障害者雇用が実現できるでしょう。
Q:障害特性に合わせた合理的配慮とは、例えばどのような配慮を言うのか。また、本人が必要とする配慮について、職場側はどのように知ることができるのか。
A:合理的配慮とは「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じること」とされています。バリアフリーのようなハード面がイメージされることがありますが、実際には業務の指示の仕方や勤務形態などのソフト面も大きな要素です。例えば、聴覚による情報入手が困難な者には、文書や図による情報伝達をすることで、情報を確実に伝えることも合理的配慮です。聴覚障害だけでなく、知的障害や発達障害にもこうした配慮が効果的なことがあります。一度に複数の指示をされると混乱する者には、工程ごとの作業内容を明確にして、一つ一つ確認して作業できるようにすることも合理的配慮です。発達障害で感覚過敏が伴う者には、耳栓やサングラスの装着が合理的配慮になることもあります。障害者本人が能力を発揮する上でどのような配慮が必要かは、障害の種類で一律に判断できるものではなく、個別性の高いものです。採用時においては本人が自分で説明できれば良いのですが、自己理解が十分でない場合や、コミュニケーションがとりづらい場合は、採用に関わった支援機関から聞くのも良いでしょう。就労支援機関が関わる形で、就労パスポートやナビゲーションブックのように、本人の障害特性の説明書が作成されている場合もあります。採用前の職場実習を行う場合は、事前の打ち合わせの際に就労支援機関から合理的配慮の内容が示され、実習の中でそれを確認することもできます。採用後には、定期的な面談を行う中で、本人が仕事をうまくできていない部分があれば、それを改善するにはどうしたら良いかを、本人と就労支援機関も交えて検討することで、より効果的な合理的配慮が実現できるでしょう。
Q:障害者を派遣してもらったり、既存の業務委託先で障害者を雇用してもらったりした場合、病院の法定雇用率にカウントできるか。
A:雇用率制度は雇用することを前提とした制度なので、障害者を派遣してもらっても病院の雇用率にはカウントされません。委託先での雇用の場合も同様です。常勤・非常勤は問いませんが、雇用契約を締結し、自ら雇用管理を行う必要があります。障害者雇用のために外注業務の一部を直接実施業務に戻すことを考える病院もありますが、敢えてそのようなことをしなくても、病院職員が行っている業務の中から比較的定型的な作業を切り出すことは十分可能です。切り出し作業を行うことを面倒に思う現場もあるでしょうが、そのような現場には非効率的で無駄の多い作業があることが多いようです。切り出しを行うことで業務の生産性を高め、働きやすい職場づくりを進める契機としてはいかがでしょう。
Q:法定雇用率を維持していくために、人材を継続的に確保するにはどうすれば良いか。
A:障害者雇用の労働市場は近年では売り手市場になっていて、新型コロナウイルスの影響で雇用全体が縮小する中でも、障害者の雇用は維持される傾向にあり、人材確保が厳しい傾向に大きな変化はありません。現場から発注される業務量が増えるのに合わせて雇用数を拡大するには、確実な人材確保ルートを開拓しておく必要があります。採用を行う際、ハローワークの求職登録者から選ぶ方法もありますが、面接だけでは分からないことも多いので、できれば事前に実習をして見極めることをお勧めします。職場実習を行う機関としては、地域の就労支援機関もありますが、送り出せる人材の数が限定的なのに対し、毎年一定数の卒業生を輩出する特別支援学校は、安定的な人材供給ルートになる可能性が高いです。特別支援学校では教育プログラムとして、高等部の2年生や3年生で職場実習が行われるため、毎年実習を受け入れることで、関係を強化することができます。
Q:ジョブコーチは専任が望ましいと思うが、雇用する障害者が少数の場合は事務担当者がジョブコーチを兼務することでも足りるか。
A:複数の障害者をチームで配置する集中配置の場合には、ジョブコーチの配置が不可欠です。ジョブコーチを人事課の職員が兼務で行う例もないわけではありませんが、本来業務の片手間で不慣れな支援業務を行うため、問題が生じてからの事後対応になり、兼務する職員自身の負担も大きいので、あまりお勧めできません。専任でジョブコーチを配置する場合、当初は障害者5人にジョブコーチ1人程度から始めるのが適当でしょう。この体制で運営してみて、業務のスピードが上がり受注量も増えるなど安定して運営できてくれば、雇用数を増やすことができます。ジョブコーチの不在日も考えると、ジョブコーチ2人で10人前後の障害者をサポートする体制を基本にして、安定的に働いている障害者の割合が増えれば、ジョブコーチ1人あたり7〜8人程度の障害者のサポートも可能でしょう。なお、専任ジョブコーチには、定年再雇用者のように院内業務に通じた者が就任する例も多く見られます。ジョブコーチの業務には向き不向きがあるので、適性がありそうな者に外部の専門研修を受講させて配置すると良いでしょう。
Q:患者の誘導等患者に接するような業務を行う際に、注意すべきことはあるか。
A:知的障害や発達障害のある者にとっては、患者さんの質問に的確に答えたり、臨機応変に対応することが苦手なことがあります。障害者雇用の実績のある病院では、患者さんから案内や誘導を請われた場合は、近くにいる病院職員につなぐことをルール化し、職員にも周知することで問題なく対応できるようにしています。精神障害のある者が患者さんの受付業務に従事している病院もあります。マニュアルに沿った定型的な対応であれば、問題なく行えることも多いようです。対人業務ができないと決め付けるのではなく、マニュアルにない対応が求められる場合は近くの職員に相談できるなど、周囲のサポートが可能な体制であれば、本人の希望を確認した上でチャレンジしても良いでしょう。