公務部門の障害者雇用Q&A(第3版)

このQ&A(第3版)は、厚生労働省の委託事業として令和元年度〜令和3年度上期までに計11回開催された「国の機関の職員に対する障害者の職場適応支援者養成研修」において、受講者から寄せられた質問に対して、「公務部門の職場適応支援者の役割」の講義を担当した依田の責任において、Q&Aの形に整理したものです。

ここに記載されていない項目についても、公務部門の皆さんから個別にご質問いただければ回答させていただきます。ご所属とお名前を付して以下の質問先までメールで送信ください。個人情報の取り扱いには配慮します。

質問先:mediem.net@gmal.com

 

【採用前・採用時】

Q1  採用前に障害特性を確認できる資料にはどんなものがあるか。

Q2  採用前に実地で障害特性や働きぶりを確認する方法はあるか。

Q3  職場実習を経た上で採用することは、採用に関する平等取扱いとの関係で問題ないか。

Q4  現場に余裕はないが職場実習をした方が良いのか。

Q5   職場実習を行う際に傷害保険等に加入する必要はあるか。

Q6   公務員には守秘義務が課せられているが、実習生に守秘義務を課すことはできるのか。

Q7   採用面接で障害の状況を具体的に聞くことは差別にならないか。

Q8   選考過程に実地選考を組み込む場合、どのような点を評価すれば良いか。

Q9   障害の情報を職場内でどこまで共有して良いのか。

Q10 採用後の支援が期待できる就労支援機関等を見分ける方法はあるか。

Q11 障害者に就労支援機関への登録をしてもらうことは可能か。

 

【採用後】

Q12 「障害者差別解消法の合理的配慮」と「障害者雇用促進法の合理的配慮」は、どのように異なるのか。

Q13 採用後の配属先の拒否感や抵抗感をなくすにはどうしたら良いか。

Q14 採用した者の職場適応に問題がある場合にはどこに相談できるか。

Q15 地域の支援機関のサポートで公的機関が利用できるものはあるか。

Q16 既存の仕事で能力を発揮できない者のために新たな業務を切り出す方法はあるか。

Q17 障害者雇用でテレワークを行う場合の注意点は何か。

Q18 自分の本来業務に加えて障害のある職員のサポートまで手が回らない。

Q19 障害のある職員を各職場に分散配置する方法と特定部門に集中配置する方法をどう使い分ければ良いのか。

Q20 専任の支援者は配置した方が良いのか。

Q21 専任の支援者(ジョブコーチ)向けの研修で公的機関の職員が受けられるものはあるか。

Q22 現場で生じている問題が障害に起因するものである場合は、本来は必要な注意でも障害に配慮して控えるべきか。

Q23 障害を理由に休暇・欠勤を重ねたり,事務負担を軽くするよう相当な範囲を超えた申出に対して、どのように対応すれば良いのか。

Q24 モチベーションが低下している者にどう対応したら良いのか。

Q25 周囲から差別されているという訴えにどう対応すれば良いか。

Q26 仕事が分からなくても聞きに来ない者にどう対応すれば良いのか。

Q27 勤務が安定せず出社できない者にどう対応したら良いか。

Q28 予想以上に働いて評価も高かった者が突然調子を崩したが、どのような原因が考えられるか。

Q29 面談で不調の要因を把握したいが、面談自体が負担になると言われて対応できない。

Q30 定型的な単純業務を障害者に担当させるのは、差別に当たらないか。

Q31 仕事が簡単過ぎると言われたが、難易度の高い仕事ができるとも思われない。

Q32 もっぱら身体を使う作業に従事することを条件に雇用された者が、自分には企画関係の業務の方が向いているので異動させてほしいと言っているが、どうしたら良いか。

Q33 コミュニケーションの仕方がストレートで周囲から敬遠されている者に対し、どのように指導したら良いか。

Q 34 外見からは把握するのが難しい精神障害者の心身の状況について、効果的に把握する方法はないか。

Q35 就労定着支援システムSPIS(エスピス)とは何か。

Q36 障害のある職員が受診している医療機関と連携するにはどうすれば良いか.

Q37 一緒に働く障害者同士の関係が悪い場合は、どのように対応すればよいか。

Q38 仕事以外のサポートまで行う必要はあるのか。

Q 39 勤怠状況が安定しない原因が家庭問題である場合、職場としてどの程度関与したらよいのか。

Q40 支援担当者の異動時に不調になるのを防ぐ方法はあるか。

Q 41 障害者雇用の取組みについて、他の公的機関と情報交換や意見交換できる機会はあるか。

 

 

【採用前・採用時】

 

Q1採用前に障害特性を確認できる資料にはどんなものがあるか。

 

「障害者活躍推進計画作成指針」(令和元年12月17日 厚生労働省告示第198号)の第5-3(4)では、「本人が希望する場合は「就労パスポート」の活用等により、就労支援機関等と障害特性等についての情報を共有し、適切な支援や配慮を講じていくことが重要である」としています。

「就労パスポート」は、障害のある者が働く上での自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などを支援機関とともに整理し、就職や職場定着に向け、職場や支援機関と必要な支援について話し合うために活用できる情報ツールで、厚生労働省が作成を勧めています。就労パスポートの作成と活用の主体は障害者自身ですが、自分の特徴を様々な角度から客観的に整理するためには、支援機関のサポートを受けて作成するのが望ましいとされています。

就労パスポートと同様な趣旨で作成されるものに、「ナビゲーションブック」があります。主に発達障害者を対象にして、障害者職業センターの支援プログラムの過程で作成されるもので、本人の自己理解を深めながら作成される点に特徴があります。

採用募集にあたり、こうした書類を採用選考時の必須提出書類とすることは適当でないことは「公務部門の障害者雇用マニュアル」(令和2年3月、内閣官房人事局・厚生労働省・人事院)p37にも記載されていますが、本人が自ら就労パスポートやナビゲーションブックを持参して、面接の際に活用することは本来の目的であり、公務部門でも活用が期待されます。

こうした書類の有無に関わらず、本人が同意する場合には、障害者の就労支援に関わる機関から、障害の特性や普段の状況等について必要な情報を得ることもできます。採用面接にあたり、支援機関の担当者の同席を義務付けることはできませんが、本人の希望により支援機関の担当者の同席を認めることは可能とされています。「障害者活躍推進計画の作成手引に係るQ&A集(第3報)」の問10−4でも、「障害者の就職活動の一環として、障害者が自らの特性や配慮事項について、就労パスポートを活用して公務部門に説明する際に、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターが説明を支援することは差し付えない」とされています。

 

Q2採用前に実地で障害特性や働きぶりを確認する方法はあるか。

 

採用前に職場で実際の作業をしてもらい、障害の特性や仕事との適性を実地に確認できるものとしては、職場実習があります。職場実習に参加する障害者の側には、仕事や職場が自分に合うか事前に確認できるメリットがあります。一方、実習を受け入れる職場の側には、採用される可能性のある障害者に対する理解を深め、雇用する際の課題や対応策を事前に確認できるメリットがあります。職場実習で事前に確認できれば、職場に受け入れることへの抵抗感や不安感も和らぐことが期待されます。

職場実習には、ハローワークが斡旋するもの、就労支援機関が実施するもの、就労移行支援事業所等が実施するもの、特別支援学校が実施するものなど様々なものがあります。実習期間についても、半日や2〜3日程度から2週間程度まで様々で、事業所側の都合や希望を踏まえて設定されます。職場実習と採用手続のタイミングについては、「先行実習による確認」と「採用過程での確認」の2つの方法があります。

「先行実習による確認」とは、職場実習(職場体験を含む)でマッチングが確認できた者について、採用手続に移行する方法です。この方法では、職場実習は採用手続の一環ではありませんが、職場実習で適性が確認された者について、本人の希望を踏まえて採用手続に進めることは可能です。就労支援機関や特別支援学校等から個別に持ち込まれるもののほか、採用意向のある事業所の側で参加者を募集して行うものがあります。

「採用過程での確認」は、職員採用を公募し、応募者に対して書類審査や面接に加えて、実地作業(実技試験や実地選考)による総合的な評価を行い、採用者を決定する方法です。実地作業は実際の業務による場合もありますが、模擬作業で行われる場合もあります。採用された場合に従事する業務への適性を確認するためのものであり、選考手続の中で実習を行うことを募集要項等で明示するため、改めて各個人に実習の了解をとる必要はありません。

 

Q3  職場実習を経た上で採用することは、採用に関する平等取扱いとの関係で問題ないか。

 

  公務員の採用については「平等取り扱い」原則があるため、特定の人を対象とする職場実習について消極的に考える公的機関もあるようですが、「公務部門における障害者雇用マニュアル」や「障害者活躍推進計画作成指針」でも職場実習の積極的な実施が推奨されていることから、公務部門で職場実習を行うことそのものに制度的な問題はありません。

 一方で、実習対象者の選考に当たっては、特定の学校や就労支援機関の利用者に対象者が限定されないよう、一定の配慮が必要でしょう。

特別支援学校の在学生の場合は、学校の教育プログラムの一環で現場実習(インターンシップ)が行われていて、学校の進路担当教員が実習先を開拓していますが、事業所の側から実習を受け入れたい旨の希望を学校側に伝えることもできます。地域にある学校に相談すれば、他の特別支援学校にも広く声かけをしてもらうことができます。東京都の場合は、教育庁特別支援教育推進室に実習受入れの専用窓口(shurou@shugaku.metro.tokyo.jp、電話03-5228-3425)が設けられていて、実習受け入れの希望を伝えると「企業情報提供シート」に実習時期、時間帯、日数、受入れ人数、求められるスキルなどの希望を記載し、都内の全校に提供してくれます。

 既卒者で就労支援機関等に登録している者の場合は、ハローワークに対して職場実習を経て採用したい旨を相談すると、ハローワークから地域の就労支援機関に情報を提供してくれることがあります。いわば「実習生の募集」で、応募者の中から実習対象者を選定することができます。

 このように特定の学校や就労支援機関に限定せず、広い範囲から職場実習の対象者を選考することもできますので、地域の特別支援学校やハローワーク、障害者就業・生活支援センターに相談すると良いでしょう。

 

Q4  現場に余裕はないが職場実習をした方が良いのか。

 

逆説的になりますが、採用段階で手間を省こうとしたため、後になって何倍も苦労を強いられている困惑しているような実態は、公務部門の雇用現場にも見られます。公務部門ではこれまで職場実習の経験がほとんどないため、職場実習のことを念頭に置いていない職場も多いと思います。しかしながら、「障害者活躍推進計画作成指針」の第5−3(2)でも、募集・採用に際しては「職場実習(採用に向けた取組に限らない)の積極的な実施が重要である」とされており、「公務部門の障害者雇用マニュアル」第4章第4節には職場実習の実施方法等が詳細に記載されているように、公務部門でも職場実習を行うことが推奨されています。2〜3日程度の職場実習でも確認できることは多く、外部の支援機関が主体となって行うものも多いので、もっと積極的に考えるべきでしょう。

 

Q5 職場実習を行う際に傷害保険等に加入する必要はあるか。

 

職場実習を行う障害者は実習生の位置付けであり、事業主との間に雇用関係はないため、賃金は支給されませんが、実習中の事故に備えて傷害保険や損害保険に加入しておく必要があります。これらの保険については、「公務部門の障害者雇用マニュアル」p46では「就労支援機関で加入するのか、受入先(各府省)で加入するのかについては、就労支援機関等と調整の上、決定する必要があります」としており、受入先の府省側で保険に加入することも想定されています。

就労支援機関や特別支援学校の訓練・教育の一環として職場実習が行われる場合は、当該機関の側で保険に加入しているので、府省の側で加入する必要はないことが多いでしょう。これに対して、就労支援機関等のサポートを受けていない者に職場実習を行う場合は、府省の側で傷害保険等に加入するか、個人の側で傷害保険等に加入してもらうことになります。東京在住の障害者や事業所については、東京しごと財団による実習保険の助成制度が適用され、公務部門でも利用できるようです。就労支援機関のサポートを受けていない者に職場実習を行う場合は、こうした地方公共団体の助成制度の有無を含め、ハローワークの専門援助部門に相談してみると良いでしょう。

 

Q6   公務員には守秘義務が課せられているが、実習生に守秘義務を課すことはできるのか。

 

 国家公務員には法律で守秘義務が課せられており、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」(国家公務員法第 100 条)とされ、違反者は最高 1 年の懲役又は 50 万円の罰金に処せられます。公務部門の情報漏洩には社会的な批判も強いですが、公務員はそもそも法令遵守意識が強く、法律上の義務は重く受けとめられています。

 こうした職場であるため、職場実習生や学校・就労支援機関の担当者を外部から受け入れることに対して、職場から懸念が示されることもあります。この点について「公務部門における障害者雇用マニュアル」では、「就労支援機関等との確認書の締結や実習者本人、支援者との秘密保持に関する誓約書を交わしておくとよい」と具体的な対応策が示されていますので、制度的には問題はクリアできるでしょう。

 もっとも、実習期間中は必ずしも個人情報を取り扱う仕事に従事させる必要はなく、採用後に従事してもらう仕事をイメージして、ワードやエクセルの文書の入力やコピー用紙の補充など個人情報を取り扱わない作業や個人情報の記載のないサンプルを使って作業してもらうことも考えられます。

 一方で、職場で知り得たことを安易に外部で話さないようにすることは、採用後には重要な要素なので、こうしたルールが守れる人材を実習生として送り出してもらうよう、学校や就労支援機関に求めることが必要です。また、実習生に対しても、実習や採用の際の説明時に職場のルールとしてしっかり伝えておくことが必要です。

 

Q7   採用面接で障害の状況を具体的に聞くことは差別にならないか。

 

障害者枠で採用する際には、仕事に影響する障害特性について把握しておく必要があります。障害の状況を聞く目的は、採用後にどのような配慮が必要かを検討するためです。障害の特性を踏まえた「合理的配慮」が提供されないと、能力が十分発揮できず、結果的に職場での評価が低くなることがあります。このことは障害のある本人と職場の双方にとって損失となります。能力を発揮できるための配慮について検討するという趣旨を伝えた上で、採用面接では仕事に影響を与える障害の特性をきちんと聞く必要があります。

「障害者活躍推進計画作成指針」の第5-3(4)では、「本人が希望する場合には、就労パスポートの活用等により、就労支援機関等と障害特性等についての情報を共有し、適切な支援や配慮を講じていくことが重要である」としています。

また、人事院から示されている「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針」(合理的配慮指針)(平成30年12月27日)では、「合理的配慮の手続において、障害者の意向を確認することが困難な場合、就労支援機関の職員等に当該障害者を補佐することを求めても差し支えない」としています。

 

Q8 選考過程に実地選考を組み込む場合、どのような点を評価すれば良いか。

 

将来的な採用の可能性を念頭に置いて職場実習を行う場合は、単に業務を体験させるだけでなく、職場に受け入れられるかどうかの評価も必要となります。一般的な職場実習では、挨拶、礼儀、態度、意欲、体力、責任感、集中力、正確さ、応用力等の評価項目を設け、何段階かで評価することが行われています。さらに、選考過程での実地選考では、報告・連絡・相談、安定した出勤等の評価項目が加えられる場合が多いです。

実地選考では、こうした個別項目の評価に加え、障害の特性と合理的配慮の確認も行う必要があります。本人が自分の特性や必要な配慮についてどれだけ理解しているかも大切です。面接の際に確認した障害の特性と合理的配慮の内容について、実地選考の際に確認しておけば、採用後の職場での合理的配慮の対応も円滑に行うことができるでしょう。

 

Q9 障害の情報を職場内でどこまで共有して良いのか。

 

採用した障害者に関して、本人や就労支援機関等から得られた情報について、どこまでをどの範囲の職員に伝えるかは、現場でも悩まれるようです。判断のポイントは、「障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な措置」(合理的配慮)を行う上で必要な情報かどうかということです。少なくとも、障害のある職員に対して業務の指示をする上司には、業務の円滑な実施に関係する事項は知らせておく必要があります。また、配慮を行うことで周りから不満が出ないよう、周囲の職員にも一定の情報共有をしておくことが必要な場合もあります。

いずれにしても、障害者の個人情報を他の職員に提供することについては、本人の了解を得ておく必要があります。障害特性のどの部分をどの範囲の職員に理解してもらうか、本人と十分に話し合い、本人の同意が得られる範囲で情報を共有します。情報共有について本人が消極的に考えている場合は、障害の特性を理解してもらうことで必要な配慮が求めやすくなることを丁寧に説明し、理解を促す必要があります。本人の理解力が十分でない場合は、支援機関の担当者等に同席してもらい、支援機関の側からも分かりやすく説明してもらうと良いでしょう。

 

Q10 採用後の支援が期待できる就労支援機関等を見分ける方法はあるか。

 

障害者の就労支援機関には、都道府県単位で設置されている障害者職業センター、圏域単位で設置されている障害者就業・生活支援センター、都道府県等の単独事業により市区町村単位で設置されている障害者就労支援センター等のほか、福祉事業として運営されている就労移行支援事業所や就労継続支援事業所(A型・B型)、教育機関である特別支援学校、デイケアを行う医療機関など、様々な機関があります。

これらの機関の役割や力量は様々で、どこに相談すれば良いか迷われることも多いと思います。特に福祉事業である就労移行支援事業所は数も多く、信頼できる施設を選ばないと後々苦労することになります。地域にある支援機関の全体状況について知りたい場合は、広域的なエリアを管轄区域としている障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターに確認すると良いでしょう。障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターでは、雇用保険を財源とするサービスは公務部門では利用できませんが、情報提供などは柔軟に対応してもらえるでしょう。

福祉事業所である就労移行支援事業所の力量を評価するには、支援体制と支援実績に注目すると良いでしょう。支援体制としては、就職した者に対して3年間定着支援サービスを提供する就労定着支援事業の実施の有無がポイントとなるほか、就労支援担当者がジョブコーチ研修を受講していることも参考になります。また、支援実績については、当該事業所の支援を受けて一般事業所に雇用された利用者数や当該事業所による定着支援を受けている利用者数が参考になります。一般事業所に雇用された利用者が極めて少ない就労移行支援事業所は、連携先として適当ではないでしょう。

 

Q11 障害者に就労支援機関への登録をしてもらうことは可能か。

 

「障害者活躍推進計画作成指針」の第5-3(2)では、障害者の募集・採用について、「就労支援機関に所属・登録しており、雇用期間中支援が受けられること」といった条件を設定することは不適切であると例示していることから、採用内定後に就労支援機関への登録を義務付けることは同様に不適切と思われます。一方で、就労支援機関の提供する職場定着支援のサービスを受けることは、障害者自身にとってメリットがあり、職場の側にもメリットがあります。

このため、採用が内定した者で就労支援機関に未登録の者に対しては、就労支援機関のサービスを受けることのメリットを説明した上で、できるだけ登録してもらうようお願いすることは可能でしょう。特に、生活面に課題があり、職場定着に不安があるような者については、就労支援機関への登録を働きかけることが望ましいでしょう。

 

【採用後】

 

Q12 「障害者差別解消法の合理的配慮」と「障害者雇用促進法の合理的配慮」は、どのように異なるのか。

 

 「合理的配慮」の考え方は、障害の「社会モデル」(作業や行動に支障が生じていることを個人に起因する問題と捉えるのではなく、個人を取り巻く周囲のハード・ソフトの環境や制度等に起因する問題として捉え、社会(環境)を改善していくことを重視する考え方)に基づき、障害者権利条約で示されたものです。この考え方は、条約の批准に伴い国内法にも取り入れられ、障害者差別解消法の制定と障害者雇用促進法の改正に結実されました。

 障害者差別解消法の合理的配慮は、もっぱら事業者がサービスを提供するなど事業を行うのに当たり配慮するものです。障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めています。公的機関にとっては、国民に対するサービス提供という面での配慮で、具体的には情報提供、手続、庁舎環境といったことが想定されるでしょう。

 一方で、同法第13条では、「事業主」としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者雇用促進法の定めによるとしています。ここで留意すべきは、サービス提供等の場面と雇用の場面とでは、合理的配慮の目的にも違いがあるということです。

 その背景には、雇用の場面では障害者も労働の対価として賃金を得る労働者であることがあります。障害者雇用促進法では、基本的理念として、障害者である労働者に対して「職業に従事する者としての自覚を持ち、その能力の開発及び向上を図り、有意な職業人として自立するように努めなければならない」(第4条)とした上で、事業主に対しては「障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有する」(第5条)としています。雇用場面ではサービス提供等の場面とは異なり、障害者本人の職業人として自立しようとする努力を前提とした上で、「労働者としての能力の有効な発揮」のための合理的配慮が求められているわけです。ところが、公務部門の雇用現場では、両者の違いについて混同されていることも多いようです。「障害があるので働けないのは仕方ない」として、能力が発揮されるための工夫をしないまま、雇用率を維持する目的で「来てくれるだけで良い」といった扱いをしている職場もあるようですが、これは決して合理的配慮ではありません。

 雇用の世界は、福祉サービスの世界ではありません。賃金を得て働く一人の労働者として、能力を最大限に発揮して職場に貢献することで、働く本人の自己効力感や周囲の評価も高まり、安定的な就労につながります。能力が発揮されるための各府省の工夫事例については「国の行政機関における障害者である職員等への合理的配慮の事例集」(令和2年1月:人事院職員福祉局・人材局)があり、地方公共団体等の事例については「公的機関における障害者への合理的配慮事例集【第四版】」があるので、参考にすると良いでしょう。

 

Q13 採用後の配属先の拒否感や抵抗感をなくすにはどうしたら良いか。

 

採用された障害者の配属先がなかなか決まらないことがあります。障害者雇用の経験がない職場では、障害者とともに働くイメージが持てず、面倒なことを押し付けられたくないとの思いから、受入れに対する賛同が得にくい場合があります。

未知のことに対して不安を感じるのは無理もないことなので、障害についての基礎的な知識を得る機会を作る必要があります。「障害者活躍推進計画の作成手引き」(厚生労働省)の中でも、「障害者である職員を職場で受け入れるに当たり、配属される前後などのタイミングで、職場の同僚・上司を対象として、障害についての基礎知識や、必要な配慮などを学ぶための研修などを実施することが重要です」としています。具体的には、府省の主催する啓発セミナーを地域の就労支援機関等の協力で開催することが考えられます。そのような機会には、障害のある職員が戦力となって活躍している職場の事例を映像で紹介したり、働いている本人や職場の担当者のメッセージを伝えると、具体的なイメージが持てて効果的です。

より早い段階から職場の不安を解消するには、アンケート等を通じて障害のあるスタッフに従事してもらいたい業務の選定を進めるなど、企画段階から現場の職員に関わってもらうと効果的です。その上で、当該業務を対象に職場実習を行い、現場の職員の目で適性を確認できた者を雇用するようにすれば、現場の職員も安心できるでしょう。

 

Q14 採用した者の職場適応に問題がある場合にどこに相談できるか。

 

障害の特性や配慮が必要な事項については、原則的には本人から説明してもらうのが望ましいと言えます。特別支援学校や障害者の就労支援機関等では、教育や訓練を通して自己認知を高める取り組みをしていますが、支援機関のサポートを受けていない者の場合は、自己理解が十分でなく、本人からの説明を聞くだけでは適切に対応できないことがあります。

就労支援機関等を利用せずハローワークの紹介で就職した者については、職場定着に懸念がある場合、ハローワーク等に配置された専門の支援者が業務遂行力やコミュニケーション能力の向上を図るなどの定着支援をフォローアップとして行うので、相談してみると良いでしょう。

 

Q15 地域の支援機関のサポートで公的機関が利用できるものはあるか。

 

 民間事業所が障害者雇用を進める場合には、地域における労働系の就労支援機関として都道府県単位で設置されている障害者職業センター、都道府県内の圏域単位で設置されている障害者就業・生活支援センター、地方公共団体が独自に設置している就労支援センターなどによるサポートが無料で利用できます。

 これに対して、公的機関が障害者雇用を進める場合は、障害者就業・生活支援センターでは障害者が採用されるまでの支援は受けられますが、採用後については、公的機関の在職者は「生活支援」は利用できるものの、「就業支援」は利用できず、個別の有償契約による場合や地方公共団体の単独事業財源による場合のみ利用可能とされていました。その扱いが令和5年度から一部緩和されました。具体的には、障害者就業・生活支援センターに求職活動中から利用登録を行った上で支援を受けて就職した者については、採用後も無償で「就業支援」が利用できるようになり、公的機関でも定着支援が受けられることになりました(「障害者活躍推進計画の作成手引き」18ページ参照)。

 また、障害者職業センターについては、公的機関の在職者には個別の支援は利用できず、障害者活躍推進計画作成の検討会議に限り有識者として参加できるとされていましたが、こちらも扱いが緩和され、公的機関の職員を対象にした研修会の講師を障害者職業センターに依頼することが可能とされました。こうした研修を行う機会に、予め職場の側の現状と課題を伝えておくことで、課題への対応のアドバイスも含めた研修にすることも可能なので、活用されると良いでしょう。

 このほか、地方公共団体が独自に設置している就労支援センターは、公務部門でも無料で利用できますが、事業を実施している地方公共団体はまだ少ないので、地域の状況について障害者就業・生活支援センター等に確認すると良いでしょう。

 なお、地域における就労支援の福祉系の支援機関(就労移行支援事業所、就労継続支援事業所(A型・B型)等)の行う障害福祉サービスとしての「就労定着支援」も、公的機関の在職者は利用できます。「就労定着支援」は障害者自立支援給付の一種で、「就労定着支援」を実施していない事業所もあることに加え、利用に伴う障害者自身の一部負担もあるため、採用する者が福祉系の支援機関に所属していた場合には、「就労定着支援」が受けられるかどうか確認する必要があります。

 

Q16 既存の仕事で能力を発揮できない者のために新たな業務を切り出す方法はあるか。

 

障害のある職員にどのような仕事を割り当てるかにより、仕事の生産性は大きく影響を受けます。障害者枠で採用される職員の中には、他の職員の仕事をそのままでは引き継ぐことが難しい者も多く、業務の内容や範囲を変更する必要が生じることが少なくありません。このような場合には、仕事の量や種類を見直すほか、作業工程の一部を切り出し、複数の職員から同様の業務を抽出して再編する「業務の切り出し」が効果的なことがあります。

こうした業務の切り出しについては、「公務部門の障害者雇用マニュアル」の第6章第1節(2)にあるように、各部署に対してアンケートを実施し、職員の多くが本来業務とは別に実施している定型的な業務を集めて新たな業務として再構築すれば、職員の負担軽減にもなり、「働き方改革」にも資することになります。どのような業務を切り出せるか、どのように再編すれば良いかなどは、その職員をサポートする就労支援機関がある場合は、当該支援機関に職場を見てもらった上で、具体的にアドバイスしてもらうことが可能です。支援機関がいない職員の場合には、ハローワークに相談してみると良いでしょう。公務部門の職場定着については、ハローワークにもサポートする役割があります。

留意いただきたいのは、採用後に業務を切り出すよりも、予め仕事を切り出してから仕事に合う人材を募集する方が、格段効果的ということです。再編特定された業務の内容を明示した上で採用募集を行い、職場実習を通じて適性を確認すれば、後になってから苦労することも減るでしょう。

 

Q17 障害者雇用でテレワークを行う場合の注意点は何か。

 

 身体障害のために通勤が困難であったり、精神障害のために人混みの中を通勤するのが苦手な者にとっては、自宅でも働けるテレワークは働く機会を広げるものでしょう。テレワークは働く場所を柔軟に選択できるため、障害のある職員も含め勤務に制約を抱える職員が自分の能力を発揮できる働き方の一つであり、「公務部門の障害者雇用マニュアル」でも、テレワークの活用について記載されています。障害のある職員が通勤負担軽減等のためテレワーク勤務の申告を行った場合には、管理者は、各府省の内規に基づき、当該職員の障害の態様・程度や業務の内容、ハード面の状況等を踏まえ、適当と認める場合にテレワーク勤務を命じることができるとされています。

 テレワークにおいても、職場の管理者はテレワーク勤務者に対して、勤務開始時・勤務終了時の連絡や業務内容の報告・相談を求めるなど、職場勤務の場合と同等の管理を行う必要があります。

 しかしながら、出勤して働くことを前提としている職場でテレワークを行う場合には、色々と注意すべき点もあります。管理者や人事担当者は、障害のある職員が、心身ともに健康に自らの能力を存分に発揮しながら就労を継続できるよう、職員とこまめにコミュニケーションをとり、職員の状況に十分配慮を行いながら、テレワーク勤務を働き方の一つとして活用していくことが重要です。

 テレワークにより自宅で一人で働く場合、どうしても職場にいる他の職員とのコミュニケーションが少なくなり、孤独になってしまうことがあります。このため、定例ミーティングにオンラインで参加してもらうなど、職場の一員であることを実感できるような配慮も必要でしょう。

 民間事業所を対象としたものですが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が作成した「在宅勤務障害者雇用管理マニュアル」(平成18年3月改訂)があるので、テレワークでの雇用管理上の注意点などの参考になるかと思います。

なお、障害者を受け入れることに職場側の理解が得られないため、出勤しないで済む方法としてテレワークを採用するような発想が好ましくないことは言うまでもありません。

Q18 自分の本来業務に加えて障害のある職員のサポートまで手が回らない。

 

障害のある職員が安定して適切に業務を実施できている場合は、職場適応支援者のサポートもあまり必要ないと思われますが、このような場合でも、業務を覚えて慣れるまでの期間は、頻繁で細かなサポートを必要とすることがあります。また、仕事の内容が変わったり、周囲の環境が変わったりした場合にも、改めて頻繁なサポートが必要となる場合があります。

こうしたことを通常の業務の合間に行うことは、かなり負担が大きいと言えます。物理的なバリアフリー環境さえ整えれば適切に仕事ができる者は、障害者枠で採用される職員の一部に過ぎません。精神障害や発達障害といった目に見えない障害の場合は、ハード面よりもソフト面の対策が必要なため、現場の職員が片手間にサポートする体制だと無理が生じる可能性があります。現場の負担を軽減するには、専任の担当者を総務部門等に配置して、各職場を巡回して障害のある職員と上司等の双方からヒアリングを行い、必要なサポートを行う体制を作る必要があります。手厚いサポートが必要な職員が複数いる職場では、専任の支援者を配置した上で特定の部門に集中して職員を配置する体制も考えられます。

 

Q19 障害のある職員を各職場に分散配置する方法と特定部門に集中配置する方法をどう使い分ければ良いのか。

 

公務部門で採用された障害のある職員の配置について、「公務部門の障害者雇用マニュアル」p74,p88〜89では2つの方法を示しています。本人の能力・適性に応じて複数の部署に分散して配置する「分散配置」と、特定の職務を選定して集めて職員を集中的に配置する「集中配置」です。

「分散配置」は、日常的な支援の必要性が少ない者を想定しており、ノーマライゼーションやインクルーシブの理念からは「分散配置」が望ましいと考えられます。一方で、「分散配置」には、①配置先の上司等が兼務で支援するため負担が大きい、②支援担当者が短期間で異動するためノウハウが蓄積されにくく就労が不安定になりやすい、③障害の特性と仕事のマッチングができていないと戦力にならない、④体調を崩して休むと仕事に穴が開いてしまう、⑤仕事が合わない場合は他職場への異動も必要となるといった課題があります。

これに対して「集中配置」は、日常的な支援が必要な者を想定していますが、①専従の支援体制が作れるので支援担当者の負担感が軽減できる、②支援担当者の長期的な配置が可能なのでノウハウを蓄積しやすい、③仕事の種類を多様にできるため障害の特性や体調に合わせて仕事を割り振れる、④体調を崩して休んでも他のメンバーが代替できる、⑤仕事が合わない場合はチーム内での調整が可能といったメリットがあると言われています。

実際にはほとんどの職場が「分散配置」であり、各職場の上司等が兼務で指導しています。支援がなくても戦力になれる者は「分散配置」が適切と考えられますが、「分散配置」だと能力が発揮できないが「集中配置」だと戦力になれる者がいることも事実です。二者択一ではなく、「分散配置」を基本としながらも、選択肢として「集中配置」の職場も用意しておくと、障害者雇用の受け入れ幅を広げられるとともに、職場への定着率が高まることが期待されます。

 

Q20 専任の支援者は配置した方が良いのか。

 

公務部門の障害者雇用の現場では、ほとんどの職場が「分散配置」であり、各職場の上司等が兼務で指導しています。この場合には、直属の上司や同じ課室内で本人の近くで働く同僚が支援担当者としての役割を担うことになります。

一方で、手厚い支援が必要な者には、専任の支援担当者が配置された「集中配置」という選択肢もあることから、「公務部門の障害者雇用マニュアル」p15では集中配置も視野に入れ、「各部局の人事担当課室や各府省の人事課等の内部に、職員(常勤・再任用・非常勤)をより専門性の高い個別支援者として育成して長期的に配置する方法」も考えられるとしています。

「集中配置」には専任の支援担当者が必要となり、マニュアルでは外部からの採用・委嘱についても触れていますが、公務部門のことを理解しない者が職場に入ることには現場の不安もあります。民間では職場や業務に精通した定年再雇用者を支援担当者に当てる例がありますが、公務部門でも非常勤の定年再任用者を支援担当者として活用すれば、こうした不安も解消できるでしょう。職員の希望と適性を踏まえ、定年退職前から支援スキルを習得する研修を受講させることで、適任者を確保していくのも現実的でしょう。

 

Q21 専任の支援者(ジョブコーチ)向けの研修で公的機関の職員が受けられるものはあるか。

 

 公的機関の職場で障害者雇用を担当する者が受けられる研修としては、厚生労働省が特定非営利活動法人ジョブコーチ・ネットワークと特定非営利活動法人全国就業支援ネットワークに委託して実施している「国の機関の職員に対する障害者職場適応支援者養成セミナー」があります。東京と大阪で年2回ずつ開催されている4日間の研修では、職業リハビリテーションの理念、就労支援のプロセス、公的部門における職場適応支援者の役割、障害特性と職業的課題、就労支援の諸制度、職場における雇用管理、アセスメントの視点と支援計画の理解、職場内における調整、職務分析と作業指導、問題解決のための面談の方法、地域における関連機関の役割とネットワークの活用、職場定着に向けた生活・家族支援、ケースから学ぶ職場適応支援の実際について、講義や演習を行うとともに、障害者雇用事業所を訪問して職場適応援助の実際を学ぶ実習も行われます。

 一方、各都道府県労働局では公務部門向けの「障害者職業生活相談員資格認定講習」を開催しています。研修期間は1日ですが、障害者雇用の理念と現状、障害者の雇用管理上の留意点、障害別に見た特徴と雇用上の配慮、障害者の雇用促進施策の体系、関連施設とサービスの概要、障害者雇用に関する各種援助について、概要を学ぶことができます。詳細については、各都道府県労働局HPをご覧いただくか、各都道府県労働局職業安定部職業対策課に問い合せると良いでしょう。

 上記の研修では受講料は無料ですが、このほか厚生労働省が指定する「企業在籍型職場適応支援者養成研修」のうち特定非営利活動法人ジョブコーチ・ネットワークや特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワークが開催する研修は、民間事業所で企業内ジョブコーチとして働く者が対象ですが、定員に空きがある場合は公的機関の者でも受講することが可能です。研修はオンラインでの講義2日間と対面での集合研修と実習4日間の計6日間で構成されています。この研修には受講料(特定非営利活動法人ジョブコーチ・ネットワーク:55,000円、特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワーク:54,000円)が必要ですが、実践的な内容となっています。

 

Q22 現場で生じている問題が障害に起因するものである場合は、本来は必要な注意でも障害に配慮して控えるべきか。

 

障害のある職員の働きぶりについて、何らかの改善が必要だと考える場合、それが障害に起因するものであれば、職場の側には「合理的配慮」が求められます。「合理的配慮」は、障害のある職員が能力を発揮できる方策について、障害のある職員と職場の側で一緒に考えるべきものであって、遠慮して指導せずに能力が発揮できない状況を放置して良いものではありません。

大事なことは、障害のある職員と職場の側の双方が工夫するということです。この趣旨は法律にも明記されています。障害者雇用促進法第4条では、障害のある労働者に対して、「職業に従事する者としての自覚を持ち、その能力の開発及び向上を図り、有意な職業人として自立するように努めなければならない」と規定しています。その上で、第5条では事業主の責務として、「社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない」としています。

現に生じている問題について、障害特性を踏まえてどのような「合理的配慮」があると効果的かについては、その職員の採用や職場定着に関わっている支援機関や主治医がいる場合は、それらの意見を聞くことも有効でしょう。

 

Q23 障害を理由に休暇・欠勤を重ねたり,事務負担を軽くするよう相当な範囲を超えた申出に対して、どのように対応すれば良いのか。

 

障害のある職員から求められれば、何でも配慮しなければならないというものではありません。福祉ではなく雇用である以上は、ノーワーク・ノーペイの原則があるので、休暇や欠勤があまりに多いようなら、そのことの問題点をきちんと理解させる必要があります。

「合理的配慮」を巡るトラブルを防ぐためには、

・採用段階で合理的配慮の必要性と内容について話し合い、しっかり確認しておくこと。

・採用する際には、合理的配慮の内容についてルール(限度など)を決めておくこと。その際、必要に応じ主治医や産業医の意見も参考にすること。

・合理的配慮については、勤務開始直後には手厚い配慮が必要だとしても、期間の経過に伴い配慮の必要度が低下するものもあるので、中長期的視点で計画する必要があること。

・ノーワークノーペイの原則に照らし、配慮の限度がどこまでかを明確にしておくこと。

・勤務開始後は、配慮の内容と実態との関係を記録し、必要に応じて再度話し合って内容を確認すること。

・配慮の範囲を超えてしまう場合は、配慮の限度内に収めるよう工夫や努力し、それでも難しい場合は、病休や退職の勧奨もあり得ること。

 

Q24 モチベーションが低下している者にどう対応したら良いのか。

 

採用された障害者が職場に定着するためには、モチベーションの問題はとても重要です。モチベーションが低いと相談されるケースで多いのは、障害特性と仕事とのマッチングができていない場合です。計算が苦手な者に経理の仕事をさせたり、コミュニケーションが苦手な者に窓口や電話対応をさせたり、感覚過敏な者を騒々しい職場に配置したり、短期記憶が苦手な者に口頭だけで指示したりすれば、本人が能力を発揮できず、仕事へのモチベーションが低下するのは無理もないことです。一方で、障害者雇用枠で採用された職員に一律に軽微な作業を割り当てたことで、やる気を失わせている事例も一部には見られます。精神障害や発達障害のある者の中には、高いスキルを有する者もいるため、そうしたスキルを活かす機会が与えられないことは、モチベーションの低下につながります。障害の特性を踏まえた仕事を割り当て、障害特性を踏まえた指示をすることで、個人の能力が十分発揮できて周囲からも評価されれば、仕事のモチベーションも高まるでしょう。

このことに関連して、「公務部門における障害者雇用マニュアル【資料編】」の16に掲載されている内閣官房内閣人事局人事政策統括官の各府省庁等官房長等あて通知「障害者の雇用促進を担当する職員の人事評価について(依頼)」(令和元年9月6日閣人人第285号)を確認しておく必要があります。この通知の中では、障害のある職員の上司の評価を行う際には、障害のある職員の障害の種類、程度、特性等を把握して、これらを踏まえた職務の調整、指導を行うなど、障害を有する職員に対して配慮し、その能力が十分に引き出されるよう工夫していたか等の取組状況を考慮することが示されています。

モチベーションには、障害のある職員の働きぶりに対して適切な評価が行われているかどうかも影響します。内閣官房内閣人事局人事政策統括官通知「障害を有する職員の人事評価について(依頼)」(平成30年12月21日閣人人第285号)には、具体的な留意点が示されているので、参考にする必要があります。適切な評価を行った上で、非常勤職員の賃金単価を引き上げたり、常勤職員へのステップアップを認めるなど、頑張った者が処遇面でも報われるようにすることは、モチベーションを高める効果があります。

 

Q25 周囲から差別されているという訴えにどう対応すれば良いか。

 

これまで周囲から否定的な言われ方をしてきた経験があると、周囲の目に敏感になっていることがあります。指摘された状況が認められない場合でも、「思い過ごしではないか」と否定するのではなく、どういう場面で「周囲から差別されている」と感じるのか、面談で具体的に聞くことが大切です。本人がそう感じる理由に根拠があるのか本人と一緒に考える中で、周囲の対応で改善すべき点や本人の受け止め方の問題が把握できれば、それに応じた対応も検討できるでしょう。本人の受け止め方の問題については、外部の就労支援機関のサポートを受けている者の場合は、支援機関の側とも情報を共有して、支援機関からもアドバイスをしてもらうと効果的でしょう。

 

Q26 仕事が分からなくても聞きに来ない者にどう対応すれば良いのか。

 

仕事のミスを繰り返す背景には、仕事の内容が障害特性とミスマッチを生じていることも考えられます。作業工程を更に細分化したり、仕事の指示の方法を見直すことが必要かもしれません。口頭での指示だけだと十分理解できなくても、文書や図で示すと効果的な場合があります。仕事の正確さよりもスピードを優先している場合もあるので、最初はゆっくりで良いので正確に行うことが必要であるなど、何を基準に仕事が評価されるか適切に伝えておくことも大切です。

分からない時には「分からない」とはっきり伝えてもらえば良いのですが、コミュニケーションに障害のある者の場合、自分から伝えることが難しい場合があります。「分からない時は聞くように」と言われても、どの部分が分かっていないのか自分でも説明できなかったり、どのタイミングで聞けば良いのか分からなかったりして、聞きそびれてしまうこともあります。こうしたことを避けるには、指示内容が理解できているかどうか、復唱させるなどして確認する方法があります。また、1日の作業の中に定期的な面談時間を設けることで、相談するタイミングに悩まずに相談できる機会を作ることも効果的です。

以上のような配慮をしても、相談しないままにミスを繰り返す者に対しては、割り当てる業務を変更することも考える必要があるでしょう。

 

Q27 勤務が安定せず出社できない者にどう対応したら良いか。

 

ラッシュ時の通勤に困難がある場合や長時間勤務が難しい場合には、職場の制度の範囲内で、時差出勤や短時間勤務による対応をすることも考えられます。仕事の内容によっては、テレワークによる対応が可能な職場もあるでしょう。

出社できないという背景には、職場のストレスが問題になっている可能性もあるので、職場の面談や就労支援機関の面談を通じて、何か問題となっていることがないか丁寧に確認し、可能な対策を検討する必要があります。

こうした点に配慮しても、疾病の症状により勤務することができず、それが一時的なものではなく継続する場合は、事業所に雇用されて賃金を得て働くのが難しい状態とも考えられます。このような場合には、就労支援機関やハローワークとも相談して、いったん離職して状態が改善するのを待ってから、改めて就労支援機関等により一般事業所で働くための支援を受けることを勧めてもらうことも考えられます。

 

Q28 予想以上に働いて評価も高かった者が突然調子を崩したが、どのような原因が考えられるか。

 

障害の特性と仕事とのマッチングが上手くいけば、高い評価を受けることもありますが、頑張りすぎて調子を崩してしまうこともあるので、注意が必要です。

当初割り当てられた仕事が想定以上にできると、こんな仕事もできるのではないかと、仕事の量が増えたり、仕事のレベルが上がったりすることがあります。それに対して、本人も積極的に応えて成果を出していき、周りからの評価も高まり、上手く進んでいると安心していた矢先に、突然調子を崩してしまうことがあります。このような場合では、周囲からの期待に応えようとして、周りが想像する以上の努力をして、疲れ切ってしまったことが原因となっていることがあります。そこまでの状況にあることに気付いてあげられず、どうしようもない状況になってから顕在化することになります。こうならないためには、上手くいっていると思われる時期にも、見守りとともに定期的な面談を行い、無理が生じていないか常に把握しておくことが必要です。

 

Q29 面談で不調の要因を把握したいが、面談自体が負担になると言われて対応できない。

 

障害の特性を踏まえた合理的配慮をしていくには、定期的な面談を通じて、何か問題が生じていないか早めに把握することが必要ですが、発達障害のある人の中には、面談での口頭のやりとりが想像以上に負担になる人もいます。口頭のコミュニケーションが苦手な者でも、文書でのやりとりは比較的うまくできる場合もあります。口頭での面談という形にこだわらず、毎日の状況を日誌に記載して提出してもらうことで、口頭でのやりとりでは気づかない気持ちを知ることもできます。精神障害者や発達障害者などでは、その日の気分のような主観的なことも日誌に記載してもらうと、調子を崩す予兆も把握しやすくなり、早めに対策を講じることができます。

紙ベースの日報を発展させたものとして、WEBを活用した日報システムも実用化されていて、厚生労働省作成の「国の機関の障害者雇用の事例集」では内閣官房人事局によるWEB日報システムSPIS(エスピス)の活用事例が紹介されています。WEBを活用することで、全国に散在する出先機関で働く障害者の状況を本省の人事部門がリアルタイムで把握することも可能になります。こうした先進的な取り組みを活用することにより、現場の負担感を軽減していくことも検討してみると良いでしょう。

 

Q30  定型的な単純業務を障害者に担当させるのは、差別に当たらないか。

 

 障害のある職員にどんな仕事を担当させるか悩むことも多いと思います。「公務部門の障害者雇用マニュアル」では、「障害の種類・程度や特性は個人ごとに様々であり、それぞれに応じた適切な合理的配慮を行えば高い能力を発揮して活躍することができる」という前提を踏まえることが大切として、障害のある職員の個々の能力・適性・特性を十分に把握し、何ができるのかを丁寧に把握することが第一歩だとしています。障害者手帳を保有している人も様々であり、精神障害のある人の中には高学歴だったり、様々な資格やスキルを有している人も多いですし、知的障害のある人の中にもワードやエクセルを使える人も少なくありません。一方で、障害者枠での採用を希望される方では、スキル的には他の職員と遜色がなくても、コミュニケーションが苦手だったり、同時並行的な作業や臨機応変な対応が難しかったり、体調が不安定だったりするため、多かれ少なかれ何らかの配慮が必要なことが多いものです。

 このためマニュアルでは、個別に障害のある職員との間でコミュニケーションを図ることにより、本人に従事してもらう職務とそれに必要な合理的配慮を検討することが重要とした上で、先入観や固定観念の下に単純・単調・軽易な仕事を割り当てるという発想は適当ではないとしています。

 障害のある職員に従事してもらう仕事として、軽作業等の定型的な業務が想定される場合がありますが、こうした業務が適しているのは、高度・複雑な作業や臨機応変な対応が苦手な人でしょう。こうした職員でも、定型的な業務だと予想以上に能力を発揮して、職場の同僚から「やってもらって助かった、ありがたい」と評価される場合があります。このように職場で評価されることで、本人も職場に貢献できていることを実感でき、定着にもつながることが知られています。

 一方で、障害があるということだけで、本人の特性や能力を考慮せずに定型的な業務を担当させてしまうと、本人の能力を活かす機会が奪われ、モチベーションも上がらず職場不適応を起こすことにもなります。このことは障害を理由とする差別として批判されかねません。

 個人の能力を最大限に発揮してもらうための合理的配慮について検討し、組織に貢献できるような仕事を割り振ることで、本人も周りの職員も満足できるような障害者雇用を進めることが望まれます。

 

Q31 仕事が簡単過ぎると言われたが、難易度の高い仕事ができるとも思われない。

 

障害のある職員に担当させる業務として、定型的な軽作業等の単純業務が割り振られる場合があります。知的障害者や精神障害者の中には、定型的な単純業務を望む者も多いですが、逆にこうした業務だとモチベーションが下がってしまう者もいます。障害の種類が同じでも、個人ごとに特性は異なるので、一律的に考えることは適当ではなく、それぞれの障害特性や希望も踏まえて担当業務を検討する必要があります。一旦定めた担当業務についても、実際の仕事ぶりを見ながら適宜見直しをしていくことが必要です。

一方で、本人がより難易度の高い業務を希望しても、ミスが多い、必要なスキルが伴わない等の理由から、任せることが難しい場合があります。自己理解が乏しいために実力に見合わない業務にこだわる者に対しては、業務を行う上での必要条件を明確に示した上で、試験的に業務の一部を行わせてみて、どの程度できるかを本人と一緒に確認し、現状での課題を共有すると良いでしょう。本人が正しく自己理解できない場合は、就労支援機関等の協力を得ることも効果的です。

 

Q32 もっぱら身体を使う作業に従事することを条件に雇用された者が、自分には企画関係の業務の方が向いているので異動させてほしいと言っているが、どうしたら良いか。

 

雇用する際に担当業務を説明し、その業務を行うことを了解した上で採用されている以上は、本人が希望したからといって担当業務を変える必要はないと言えます。一方で、希望する職場に本人の能力を発揮できそうな業務があり、本人のスキルから見て現在の担当業務よりも高いパフォーマンスが期待できそうな場合もあるかと思います。そのような場合には、人材を補充する意向があるか先方の職場に確認した上で、一定期間に限り試行的に業務に従事させてみて、業務に必要なスキルがあると先方が判断できたならば、異動させることもあり得るでしょう。そのような業務が先方になく、かりにあったとしてもスキル的に無理な場合は、担当してもらえる業務がないことを伝えれば足り、新たな業務まで作り出す必要は必ずしもないでしょう。

 

Q33 コミュニケーションの仕方がストレートで周囲から敬遠されている者に対し、どのように指導したら良いか。

 

障害のある職員の職場内でのコミュニケーションの仕方について、周囲の職員が違和感を感じることがあります。多少の違和感があっても、仕事そのものに影響がなければ、時間の経過とともに周囲が慣れることで問題が解決することもあります。しかしながら、本人の言動により職場の生産性が落ちるような場合は、職場の秩序として一定のコミュニケーションルールを示す必要があります。この場合、どのような表現が周囲の職員に嫌な思いをさせるか、できるだけ具体的に伝える必要があります。使うことが適当でない言葉や表現については、その理由を含めて説明するとともに、そのことを文書化していつでも自分で再確認できるようにしておくと良いでしょう。その上で、定期的な面談の機会を通じて、周囲のコメントも含めて振り返りを行うと効果的でしょう。

 

Q 34 外見からは把握するのが難しい精神障害者の心身の状況について、効果的に把握する方法はないか。

 

外見からは問題がなさそうに働けている者でも、面談でよく話を聞いてみると、思わぬ問題を抱えていることが分かることがあります。その意味では定期的な面談の機会を作り、本人の気持ちを含めた状況を確認する必要があります。

また、口頭で聞いても問題ないという答えが返ってくる場合でも、文書だと不調の兆しとなるような内容が出てくることがあります。そのため、安定して働くために無理のない範囲で、毎日の気持ちの状態を含めた「日報」を書いてもらうことも効果的です。こうした日報の一つとして、web上で日報を記載して、それを外部の専門家も含めて閲覧し、コメントするシステムもあります。厚生労働省が作成している国機関や地方公共団体の障害者雇用好事例集では、内閣官房人事局や埼玉県スマートステーションflatにおいweb日報システム(SPIS)が活用されている事例も紹介されています。

 

Q35 就労定着支援システムSPIS(エスピス)とは何か。

 

 精神障害のある職員の雇用では、突然調子を崩すなど不安定さが問題となる場合があります。こうした課題に対応する方法として、一部の公的機関では「就労定着支援システムSPIS(エスピス)」が活用されています。厚生労働省が取りまとめている「国の機関の障害者雇用の事例集」では内閣官房、「地方公共団体の障害者雇用事例集」では埼玉県庁と金沢市でSPISを活用している事例が紹介されています。

 SPISは、障害者が記載する日報を職場の担当者と外部の専門家がWeb上で共有するもので、内閣官房の事例紹介では「障害者が直接担当者に言いにくかった業務に対する不安や要望も伝えられるようになった」「体調管理ができるようになった」「担当者が外部の専門家から障害者への対応方法を学べた」といった効果が指摘されています。

 SPISでは、日報の記載を通じてセルフチェックと自己開示が行われます。セルフチェックの特徴は、自分自身の心身を安定させる上で重要な項目、逆に言えば体調不調になる予兆をつかむための項目を自分で設定し、それを4段階の評価項目でチェックします。また、意見・感想欄には、その日に感じたことや気分、伝えておきたいことなどを記載します。その意味では、「仕事」の日報というよりは「気持ち」の日報という面があり、これに対して担当者がコメントをしていく中で信頼関係ができて、就労も安定していきます。

 SPISでは日々の評価をグラフ化できるため、体調が不調になる時期やその前後の状況を分析することで、本人自身も周りも変化のきっかけに気付けるようになります。毎日のコメントもテキストデータとして記録されるので、グラフと照らし合わせて何が原因か分析し、原因が分かると対策も講じやすくなります。

 障害のある職員と職場の担当者、外部の専門支援者の三者がWebを通じて情報を共有することで、リアルタイムな状況把握とタイムリーな支援が可能なことから、問題の兆しが現れた時点で早めに介入することで、最小限の労力で対応することができます。

 Web活用には地理的な制約がないため、各地にある出先機関の職場で三者の関係性を作る際に、外部支援者の役割を本庁の人事部門が担うことも可能です。最初のうちは外部の専門家に見てもらうとしても、本庁に障害者雇用担当者が専任で配置される段階では、この担当者に遠隔支援スキルを研修で習得してもらうと、出先機関で働く精神障害者の日常的な状況把握と気持ちのサポートが可能になるでしょう。SPISの利用は有償ですが、30日間無料でトライアルすることもできます。詳しい内容については、特定非営利活動法人全国精神保健職親会等の運営する「就労定着支援システムSPIS」(https://www.spis.jp)の紹介サイトをご覧ください。

Q36 障害のある職員が受診している医療機関と連携するにはどうすれば良いか

 

障害の原因となる疾病の治療が継続している者の場合、勤務状態が疾病の症状に影響したり、逆に疾病の状態が勤務に影響したりすることがあります。精神障害者の場合には、服薬中で通院を継続している者も多く、働くことが症状に影響することもあるため、特に主治医との連携が必要とされています。

事業主は職員に対する安全配慮義務を負っているため、安全配慮のために必要な情報を得る必要があります。病気や怪我などで業務制限が必要な者については、本人から提出される主治医の意見書を踏まえて、業務内容が検討されますが、本人の了解が得られる場合には、医療機関の受診に同行して主治医から直接話を聞くことも可能です。このほか、主治医に情報提供を依頼する文書を本人から主治医に提出してもらう方法もあります。その際には、医療機関の定める意見書作成料を負担することになります。

 

Q37 一緒に働く障害者同士の関係が悪い場合は、どのように対応すればよいか。

 

 採用された障害者が作業を行う際に、作業内容によっては2人1組で作業することもあると思います。2人の相性が良い場合は、作業もはかどり職場にも定着しやすい面がありますが、仕事以外のおしゃべりが多く作業が進まなくなったり、職場環境に悪影響が生じるような場合には、注意する必要があります。

 これに対して、一緒に働く障害者同士の関係が悪く、一方が他方に対して攻撃的な言動をしたり支配的に振る舞ったりする場合もあります。こうした問題が生じる背景には、個人の性格も関係はしますが、作業のスピードや正確性に差がある者が一緒に仕事をすることで、一方に不満が生じていることもあります。その意味では、単に生じている事象に目を向けるだけでなく、その背景に何があるかを探ることも必要でしょう。その上で、こうした関係の悪い状態が続き、指導しても改善されない場合には、組合せの解消も視野に入れる必要があるでしょう。

 障害者の配置について特定部門への集中配置をしている集約型オフィスでは、ペアの組合わせも柔軟に変えられるため、色々な組合わせを試した上で、作業効率が良いペアで働けるようにすることも可能でしょう。

Q38 仕事以外のサポートまで行う必要はあるのか。

 

障害のある職員を採用する事業主には、過重な負担とならない範囲での「合理的配慮」の提供が義務付けられています。一般職の国家公務員については、国家公務員法第71条(能率の根本基準)等により、職員の能率の発揮及び促進、職員の健康の保持増進及び安全の確保を図ることとされていることから、国等にも合理的配慮の提供義務があるとされています。その上で、一般職の国家公務員については、人事院事務総局職員福祉局長・人材局長通知「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針」(平成30年12月27日)が発出されています。

同指針の「基本的な考え方」では、合理的配慮について「障害者である職員について、障害者でない職員との均等な待遇の確保又は障害者である職員の能率の発揮及び増進の支障となっている事情を改善するため、障害者である職員の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない」ことが記載されています。

こうした合理的配慮が必要な範囲は、障害のある職員の業務との関係で決まるものであって、仕事以外の部分のサポートは原則として合理的配慮の対象外となります。もっとも、職場内での移動や勤務中にも利用するトイレなどの施設については、業務そのものではないものの、合理的配慮の対象になると解されます。

なお、合理的配慮として提供されている具体的な事例として、各府省の事例については「国の行政機関における障害者である職員等への合理的配慮の事例集」(令和2年1月:人事院職員福祉局・人材局)があり、地方公共団体等の事例については「公的機関における障害者への合理的配慮事例集【第四版】」があるので、参考にすると良いでしょう。

 

Q 39 勤怠状況が安定しない原因が家庭問題である場合、職場としてどの程度関与したらよいのか。

 

障害のある職員の面談等から、職場で生じている遅刻、欠勤、作業効率の低下などの問題の背景に家庭の問題があることが分かる場合があります。家庭に関する問題に職場が介入するのは適当でありませんが、家庭の問題が原因でも結果的に仕事に支障が生じているなら、その改善が必要なことは伝える必要があります。その改善については、採用前に支援を受けていた機関や現に登録している生活面の支援を担う機関がある場合は、それらの支援機関に対応してもらうことも考えられます。その意味では、地域の支援機関との関係を継続しておくことは大切でしょう。

 

Q40 支援担当者の異動時に不調になるのを防ぐ方法はあるか。

 

支援担当者の支援を受けている職員が、支援担当者の異動後に調子を崩してしまうことがあります。このタイミングで調子が悪くなる主たる原因は、職場の側にあると考えて良いでしょう。

安定的な支援を継続するには、前任の支援担当者から後任に適切な引き継ぎを行うことが必要です。適切な引き継ぎのためには、支援対象者の特性や配慮について、前任者がきちんと整理して情報を伝える必要があります。その際に参考としたいのが「就労パスポート」です。「就労パスポート」は、障害のある者が働く上での自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などを支援機関とともに整理し、職場や支援機関と必要な支援について話し合うために活用できる情報ツールです。就職段階で作成されるだけではなく、就職後にも職場の上司・同僚と内容を共有することで、本人や職場の側で活用することが期待されています。「就労パスポート」の作成・改訂には、就労支援機関も関わることが望ましいとされています。日頃から就労支援機関のサポートを受けながら、仕事や職場の状況も踏まえて「就労パスポート」を最新の状態にしておけば、支援担当者の異動時にも安心して情報を引き継ぐぎことができます。

こうした情報の引き継ぎと合わせて、後任者には速やかに職場適応支援者養成研修等の研修を受講してもらい、支援スキルを身につけることが望まれます。こうしたことは、支援担当者異動に際してのルールとして、障害者活躍推進計画にも明記しておくと良いでしょう。

 

Q 41  障害者雇用の取組みについて、他の公的機関と情報交換や意見交換できる機会はあるか。

 

 公務部門には守秘義務があるため、公的機関同士の間でさえ意見交換や情報交換が躊躇されることがあるようです。加えて、「障害」という個人のプライバシーに関わる問題であることも、障害者雇用に関する情報交換をしにくくしている面があるようです。民間事業所の場合は、障害者就業・生活支援センターや障害者職業センター、ハローワークなどがこうした機会を設けていますが、公的機関では障害者雇用の取組みについて他の公的機関と情報交換や意見交換ができる機会は極めて限られているのが現状です。

 こうした中で、「国の機関の職員に対する障害者職場適応支援者養成セミナー」は、1週間近い研修のため、受講者同士で意見交換・情報交換できる貴重な機会となっていて、研修の終了後も受講者間でのやり取りが続いていることも多いようです。障害者雇用の担当者が一人で悩まないためにも、公的機関横断的に意見交換・情報交換ができる環境が求められています。

 こうしたニーズに応えるため、地域によっては障害者就業・生活支援センター等が中心となって、地方公共団体や国の機関を対象とした公務部門の障害者雇用の情報交換会や交流会を開催しているところもあるので、問い合わせてみるのも良いでしょう。