第52話 先例が生み出す現場からの提案

西日本にある県立病院では、障害者が環境整備、看護補助、事務補助の3部門で働いています。この病院は、病院単体で見ると、現時点では法定雇用率を満たしていますが、今後予定される法定雇用率の引き上げと除外率の引き下げを考えると、更に雇用数を増やす必要があります。

看護補助業務に従事している2名の知的障害者は、それぞれ病棟に配置され、看護師長の指示の下に業務に従事しています。コミュニケーションに課題はあるものの、周囲の理解もあって、今では病棟の貴重な戦力になっています。こうした経験を踏まえ、看護部長としては、新たに障害者を雇用する場合には、特定の病棟に配置するだけでなく、病棟を巡回して医療資材の補充を行うなど、病棟全体の負担軽減に役立つ業務を担ってもらえると助かると考えていました。現状では法定雇用率を満たしているため、事務部に話はしていませんでしたが、更に雇用数を増やす必要があることを知り、「特別なサポートがなくても看護部で受け入れるので、是非、新たな人材を雇用してほしい」と事務部に提案されたそうです。

背景には、障害者雇用の経験を通じて、指示の仕方や対応について看護部内での理解が進んだことがあるのでしょう。看護部が障害者雇用を前向きに考えていることを知り、事務部も心強く感じたことと思います。ハローワークや法人本部から障害者雇用について指導を受ける事務部では、院内にどうお願いすれば良いか悩むことが多いものですが、医療現場で戦力となっている先例ができると、現場から障害者の担う業務の提案があるなど、障害者雇用を活用したいという流れが自然に出てくることを、この病院の事例からも学ぶことができます。