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今般の公務部門での障害者雇用の問題に関連して、人事院では国家公務員における合理的配慮に関する指針を策定することとし、平成30年11月30日付で「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省庁の長が講ずべき措置に関する指針案」に対する意見を公募しました。これに対して、当ネットワーク代表世話人から以下の意見を12月11日付で人事院に提出しました。

職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針案に対するパブリックコメント(意見公募手続)の実施について

○提出意見

(意見内容)

・別表に4として「障害者の担当業務を定めるに当たっては、既存の業務にとらわれず、複数部門から業務を切り出すなど業務の再編を図ることで、公務部門全体の生産性が高められる点にも考慮すること」を追加する。

・別表の知的障害の採用後の欄に「事務補助作業等を集約する等、既存の業務分担にとらわれず担当業務を構成すること」「個人の能力が発揮しやすいよう、チームでの作業分担やジョブコーチの配置等の働く環境作りに配慮すること」を追加する。

・別表の精神障害と発達障害の採用後の欄に「本人の状況や気分の変化を日常的に把握し、不調の傾向が見られたら迅速に対応すること」を追加する。 

(理由)

公務部門で法定雇用率を達成するには、身体障害だけでなく、これまで公務部門での雇用経験が少ない知的障害、発達障害、精神障害も対象としていくことが不可欠です。

知的障害者の雇用では、中央省庁にあるような事務補助系の作業を大手企業の特例子会社等で実施しており、同様の体制(チームで作業、ジョブコーチの配置)さえ作れば、安定的な雇用が実現できます。各省庁に事務補助センター部門を作り、データ入力、書類編綴、印刷コピー、備品搬送、郵便物封入・集配・発送等の各部の作業を一元的に行う体制にすれば、どの省庁でも知的障害者の相当数の雇用が可能です。「働き方改革」の一環として、こうした事務補助作業を担うことは、公務部門全体の生産性向上にも繋がります。

 一方、発達障害者や精神障害者の場合は、学歴の高い者も多く、単独で各職場に配置できる者もいます。しかしながら、中央省庁のチャレンジ雇用で職場に発達障害者を受け入れた経験からは、一見仕事ができている場合でも、本人から不安や問題を相談できず、周りもそのことに気付かず、結果的に調子を崩すことが多々見られました。これを避けるには、本人が毎日の状態や気分をスマホ等で記録し、それを職場の上司や人事部門の障害者雇用担当者が共有して、必要なコメントをする「遠隔支援」が効果的です。大阪府や京都府では既に事業所支援のスキルとしてITを活用した遠隔支援システム(SPIS)が導入され、発達障害者や精神障害者の定着に貢献しています。霞が関だけでなく、全国各地の出先機関で発達障害者等を雇用するならば、本人だけでなく職場の上司を支えるためにも、ITを活用した「遠隔支援」が不可欠です。

参考 出典)

・事務補助業務での障害者雇用事例

 「医療機関の障害者雇用ネットワーク」ホームページ http://medi-em.net/ の「先進事例に学ぶ」→「切り出し業務の具体例」→「切出し業務一覧:事務系(概要)」を参照。

・遠隔支援システムSPIS

 「就労支援システムSPIS」ホームページ https://www.spis.jp/ を参照。

 

厚生労働省では、中央省庁における障害者雇用率の算定が不適切だった問題への対応の一環として、障害者のそれぞれの障害特性等を適切に踏まえ、活躍の場を広げ、生き生きと働くことができる職場環境の整備等、厚生労働省全体で障害者雇用を更に推進するため、平成30年11月12日、厚生労働省障害者雇用推進本部を設置し、「厚生労働省における障害者雇用のさらなる推進に向けた取組」を決定しました。

厚生労働省では、障害者のそれぞれの障害特性等を適切に踏まえ、活躍の場を広げ、生き生きと働くことができる職場環境の整備等、厚生労働省全体で障害者雇用を更に推進するため、平成30年11月12日、厚生労働省障害者雇用推進本部を設置し、「厚生労働省における障害者雇用のさらなる推進に向けた取組」を決定しました。

「厚生労働省における障害者雇用のさらなる推進に向けた取組」の中では、平成30年度中に初回の公募・選考採用を実施すること、非常勤職員として全国で活躍している障害のある職員の場合は職務実績を評価して常勤採用につなげる「ステップアップ」の取組を行うこと等が掲げられています。

(資料1)厚生労働省における障害者雇用のさらなる推進に向けた取組(概要)

(資料2)厚生労働省における障害者雇用のさらなる推進に向けた取組(本文)

(資料3)推進体制

 

11月26日放映のNHKクローズアップ現代+「企業が注目!発達障害 能力を引き出す職場改革」の中で、当ネットワークメンバーの西田尚美さんが所属するがん研有明病院で職場実習を受けられる方の様子が紹介されました。ベッド清掃の写真付きマニュアルや西田さんのインタビューも含め、NHKクローズアップ現代+の以下のサイトに掲載されています。

「企業が注目!発達障害 能力を引き出す職場改革」

 

本年8月以降、中央省庁や地方公共団体における障害者雇用率の算定が不適切だったことが発覚し、マスコミや国会でも大きく取り上げられています。再点検の結果では、国の機関では3,814.5人、地方公共団体では4、667.5人、独立行政法人等では335.5人の不足数があることが判明しました。

(資料1-1)「平成30年8月28日に公表した「国の行政機関における平成29年6月1日現在の障害者の任免状況の再点検結果について」及び同年9月7日に公表した「立法機関及び司法機関における平成29年6月1日現在の障害者の任免状況の再点検結果について」の訂正について」(平成30年10月22日)

(資料1-2)「都道府県の機関、市町村の機関、都道府県等の教育委員会及び独立行政法人等における平成29年6月1日現在の障害者の任免状況等の再点検結果について」(平成30年10月22日)

今回の公務部門における障害者雇用問題については、「公務部門における障害者雇用に関する関係閣僚会議」が設置され、10月23日には「公務部門における障害者雇用に関する基本方針」が決定されました。

(資料2-1)「公務部門における障害者雇用に関する基本方針」(平成30年10月23日)

(資料2-2) 「公務部門における障害者雇用に関する基本方針(概要)

基本方針では、今般の事態の検証とチェック機能の強化について示したうえで、法定雇用率の速やかな達成に向けた計画的な取組、国・地方公共団体における障害者の活躍の場の拡大、公務員の任用面での対応の方針を掲げ、閣僚会議等で取組状況をフォローアップしていくこととしています。

障害者の認定という法定雇用率制度の根底に関わる部分で、公務部門において今回のような問題があったことは、大変残念なことです。

公務部門における障害者雇用の問題について、これまでの議論を若干振り返ってみたいと思います。障害者雇用率の達成に苦労されている民間企業が多い中、率先垂範すべき立場にある公務部門には、民間企業より0.3%高い法定雇用率が設定されています。このように民間企業よりも高い目標を設定されているにも関わらず、ほとんどの国の機関や地方公共団体でこれを達成できていたのは、在職中に身体障害者となった中途障害者が雇用継続される割合が民間企業に比べて高いためと考えられていました。そうは言っても、今後とも確実に雇用率を達成していくためには、民間企業で知的障害者の雇用が進んできたのと同様に、身体障害者のみではなく、知的障害者や精神障害者も視野に入れた採用を考える必要がありました。この考え方の下に、平成16年度には政府の障害者施策推進本部の下の関係府省課長会議に「公務部門における障害者雇用推進チーム」が設置され、「公務部門における障害者雇用ガイドブック」(平成17年3月)が策定されました。

その後、障害者雇用を促進するための諸制度は拡充が続き、障害者雇用を支援する機関の種類や数も格段に増えました。精神障害者や発達障害者も雇用率制度に取り込まれ、障害特性に即した支援ノウハウも蓄積されてきました。こうした制度・支援機関・ノウハウを最大限に活用することで、働く障害者と雇用する職場の双方にとって意義のある障害者雇用を実現することは、十分現実的なものとなっています。この環境を最大限に生かした先駆的な取組みを行うことこそ、今後の公務部門の障害者雇用に期待したいところです。

障害のあるスタッフがチームで働いている病院では、スタッフが仕事に慣れて作業のスピードが速くなるにつれて、仕事の空き時間が増えてきます。そうなると、院内から新たな業務を切り出す必要が生じてきます。チームで働くスタッフの所属は人事部門としている病院が多いようですが、このことは院内から新たな業務を切り出す際にはとても有利に働きます。

関東地方にある急性期の公的病院では、障害のあるスタッフのチームは人事課に設置されているため、チームへの仕事の発注も人事課から院内各部門に働きかけています。院内に広く仕事の発注を呼びかけるだけだと、スポット的な作業の依頼はあっても、恒常的な作業の発注はなかなか出てきません。業務の切り出しや作業工程の明確化など、一定の準備作業が必要なことが面倒に思われるからです。この病院では、院内から仕事の依頼が来るのを待つだけではなく、積極的に特定の部門に働きかけていくことにしています。その際に参考にしているのが、部門ごとの職員の残業状況です。人事課では職員の残業状況が把握できるため、残業が多い部門に対して、障害のあるスタッフにできる仕事を切り出すことで、職員の残業時間の削減を行うよう提案しています。この病院では、スタッフが現場に出向いて行う仕事では、人事部門の担当者が付いていくのではなく、現場の職員が指導や見守りを行うことを前提にしています。人事部門の担当者の役割は、各スタッフの障害特性を現場の職員に伝え、安全かつ正確な作業が行えるようアドバイスすることです。こうしたことを通じて、作業工程が明確となり、業務全体の効率化が進み、残業時間も減少するという、病院全体として好ましい結果が得られているそうです。

ヤマト福祉財団は、心身に障がいのある人々の「自立」と「社会参加」を支援することを目的に、1993年9月に設立された公益財団法人です。同財団は、クロネコヤマトの「宅急便」を開発、成功させたヤマト運輸の社長、会長を歴任された故・小倉昌男氏が会社役職の一切を退かれた際に、個人資産の大半を寄付して創られました。財団ニュース60号(2018年10月20日発行)のリレーコラムにおいては、当ネットワーク代表世話人の依田の小倉氏との思い出に触れた記事が掲載され、当ネットワークについても紹介させていただきました。

リレーコラム夢をつないで「共感の輪を広げよう」(ヤマト福祉財団ニュースNo.60)

独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)が実施している、日本看護協会の認定看護管理者教育課程サードレベルの研修において、当ネットワークから講師として参加し、3時間の講義を行いました。4年目となる今年度の講義では、「健康経営」と障害者雇用の関係について紹介するとともに、医療機関での障害者雇用を進める際には、法定雇用率の達成に看護部が協力するという受け身の姿勢ではなく、医療従事者の「働き方改革」の一環として、看護職が国家資格の必要な業務に専念できるための方策として、障害者雇用を積極的に活用する姿勢が重要であることを強調しました。また、最近では看護現場でも自閉症スペクトラム(ASD)のある職員への対応が課題になってきていることから、自閉症スペクトラム(ASD)の傾向のある看護職への対応について取り上げました。

講義の後半では、(1)看護職の業務負担を軽減するため、知的障害や精神障害のあるスタッフにお願いしたい業務、(2)自閉症スペクトラム(ASD)のある職員に担当させられそうな業務、についてグループワークを行いました。看護部門のトップリーダーを目指す受講者だけに、意識の高い意見が交わされ、また、実際に自閉症スペクトラム(ASD)のある職員の対応に苦労されている病院からは、経験に基づく有意義な意見も出されました。研修には、JCHO病院のほか労災病院、大学病院、自治体病院、厚生連病院、民間病院など、26病院からの参加がありました。こうした長期間の研修で築かれた看護管理職のネットワークを通じて、障害者雇用や自閉症スペクトラム(ASD)のある職員への対応など、各病院が抱える課題について情報交換され、ノウハウが共有化されていくことを期待したいです。

(講義資料)

東京都にある600床規模の民間病院では、知的障害や精神障害のあるスタッフ10数名が雇用され、人事課のチームに所属して院内各所で働いています。この病院では、患者の平均在院日数が短くベッドの入れ替えも多いため、障害のあるスタッフの仕事もベッドメイクなど病棟関係が多くなっています。障害者雇用を積極的に進めるようになった背景にも、看護助手の確保が難しくなってきたことがあるそうです。

知的障害や精神障害のあるスタッフを多数雇用している病院では、専従のジョブコーチを配置しているところも多いですが、この病院では人事課の職員が人事業務の傍らで、障害のあるスタッフのサポートを担当しています。スタッフは、午前中は各自が担当する病棟に1人で出向いて、病棟の看護助手からの指示を受けて、ラウンジ清掃、ベッドメイク・清掃等の作業を行います。1人で作業できるよう、作業工程を詳細に写真入りで示したマニュアルを病院で作成し、清掃道具等とともにカートに取り付けています。

病棟では看護助手が作業の指示をするため、月1回の看護助手会議には人事課の担当者も出席し、指示の仕方などをアドバイスしています。例えば、「20分で終わらせて」と言っても伝わらないことがあるので、「何時何分までに終わらせて」と具体的な時間で示すといったことです。また、指示内容が口頭だけだと明確でないので、小さなホワイトボードを使って、その日の指示内容を書いてもらうようにもしています。

午前中はスタッフ全員がそれぞれの担当現場に出向いて作業するため、この時間帯にはサポート担当者は人事課での仕事に専念できます。昼食の休憩時間帯にスタッフは戻ってきて、午後からは作業室で病棟等から受託した作業を集団で行います。

専従のジョブコーチを配置するか否かは病院の事情にもよりますが、この病院では専従のジョブコーチを置かないことで、担当病棟に一人で出向くスタッフの自覚も促されているようでした。

 

関東地方にある公的病院では、精神障害のあるスタッフが数名雇用されていますが、そのうちの1名は薬剤部で働いています。数年前から薬剤部で勤務しているスタッフの業務は、当初は薬剤トレイの清掃が中心でしたが、その後、本人からの提案があった仕事を取り入れていった結果、仕事の種類も徐々に増えていき、現在では薬剤トレイの清掃は業務の3割程度になっているそうです。仕事のスピードが速くなるにつれ、薬剤部の仕事以外にも、入院案内の折りの作業など他部門からの作業依頼も入るようになりました。

薬剤部長さんにお話を伺ったところ、薬剤補助の仕事をしてもらい、薬剤師が本来の業務に集中できるため、大変助かっているそうです。薬剤部長さん自らが定期的に面談をされていて、長いときには1時間以上かけてじっくり話を聞き、面談記録もしっかり残されていました。面談の内容も様々で、薬剤部長さんのお人柄と合わせて、話しやすい雰囲気を作られていることに感心させられました。

本人に自分の強みと弱みについて聞いたところ、「強みは真剣に取り組むこと、弱みは頑張り過ぎて疲れてしまうことで、体調を崩して休んだりしないことを目標にしています」との答えが返ってきました。そのために工夫している点は、「毎日自分の体調を10段階で記録して、数値が下がってくると気をつけるようにしています。そうするようにしてから、体調を崩すこともなくなりました」とのことでした。この方法は、働き始めた頃にお世話になった就労支援機関のジョブコーチに教わったとのことです。

この病院には、同じ法人が運営する複数の病院があるので、こうした好事例を同一系列の他の病院にも知っていただくことが大切だと、訪問に同行いただいた法人本部の皆さんともお話ししました。