第46話で紹介した徳島県にあるホウエツ病院では、障害のある職員の業務の一つとして「オムツ・おしりふきの補充」があります。この業務についても、カード式マニュアルが用意されていて、病棟にある保管スペース(リネン庫)に保管されているオムツやおしりふきについて、品目ごとに定められた定数を下回っている場合は、倉庫から必要数を運んできて補充するという手順が示されています。この作業を確実に行うため、カード式マニュアルに示されている在庫チェックの様式と同じものを印刷した紙に、リネン庫ごとに各品目の定数を記載したものを用意し、これをカード式マニュアルと一緒に現場に持参するようにしています。リネン庫では、その日の在庫状況を確認した上で、補充が必要な数を紙に記載することで、障害のある職員も間違えることなく必要数を倉庫から運んできて補充することができています。マニュアルとともに、こうした毎回の作業を確実に行うための工夫があると、より確実に作業が行われるようになり、障害のある職員が貴重な戦力となっていくことが分かります。
新着情報
「医療機関の障害者雇用ネットワーク」と福岡障害者職業センターの共催による「医療機関の障害者雇用に関するセミナー〜医療機関の「働き方改革」に貢献する障害者雇用〜」が2024年3月13日に福岡市舞鶴庁舎で開催されました。会場には福岡県の内外から100名ほどの医療機関関係者が参加し、医療機関の皆さんの関心の高さが感じられました。
主催者を代表して当ネットワーク代表の依田から開催挨拶をした後に、福岡労働局の小野寺徳子局長から挨拶いただきました。小野寺さんは昨年まで厚生労働省の障害者雇用対策課長を務め、障害者雇用促進法の改正を担当されたことから、法改正の趣旨として障害者個人の能力を活かすことの大切さに触れられました。
プログラムの最初に、依田が「病院での障害者雇用の進め方〜働き方改革に資する障害者雇用〜」について基調講演を行い、続いて福岡市立障がい者就労支援センター所長の黒田小夜子さんが「医療機関における障がい者の就労支援」について特別講演を行い、支援機関の具体的なサポート内容について紹介いただきました。その後、パネルディスカッションに移り、最初に福岡障害者職業センターの小野寺十二主幹障害者職業カウンセラーから障害者職業センターの業務紹介をした後に、社会医療法人原土井病院法人本部事務部長の鈴木崇さんと特定医療法人財団博愛会博愛会病院地域サポート部次長の呼子修一さんのお二人から、病院での障害者雇用について事例発表していただきました。両法人とも健康経営優良法人の認定を取得されていて、人財投資として誰もが働きやすい職場づくりを進めており、障害者雇用もその一環として位置付けておられると感じました。
事例発表後には、小野寺さんの司会の下に、事前に提出された質問や会場からの質問に答える形で進行しました。質問で多かったのは、障害者雇用の業務の切り出し方や、院内でのサポート体制についてでした。
業務の切り出しについては、先行する他病院が障害者雇用で実施している様々な業務例を具体的に示した上で、院内アンケートで「やってもらうと助かる業務」を各部門から出してもらうと、多くの業務が出てくるので、その中から障害のあるスタッフが円滑に処理できるよう、地域の専門機関のアドバイスを受けると効果的であることを紹介しました。これらの支援機関は依頼があれば病院を訪問し、現場の業務を見ながら必要なアドバイスを無料でしてくれるので、活用しない手はないでしょう。
会場では、病棟から業務を切り出そうとしたが、看護補助者が自分の仕事を奪われると反対しており、どうしたら良いかといった質問もありました。看護補助者が行なう業務には、患者さんとのコミュニケーションが必要な対人サービスの他にも定型的な作業があるので、定型的な作業を障害のあるスタッフの業務として切り出し、看護補助者は対人サービスに重点を置くことで看護師の負担を軽減すれば、全体的なパフォーマンスが向上できる旨を説明すると良い旨をお伝えしました。今後は看護補助者の人材確保も難しくなるので、将来を見据えて、障害者雇用の職域を戦略的に広げていく意味があるでしょう。
サポート体制については、働く人の支援の必要度によって異なります。職場の上司がサポートする「分散配置」は、比較的支援の必要度が低い人を前提としています。これに対し、専任の支援者を配置した「集約型配置」では、専任の支援者が各人の適性に応じて仕事を割り振るので、支援が必要な人を幅広く受け入れることができます。専任の支援者の配置コストが伴うため、集約型配置の導入を躊躇する病院も多いですが、各部門の負担軽減による生産性向上の効果は少なくなく、コスト以上の効果がある場合があります。障害者雇用を進めることが「働き方改革」に繋がっている病院では、最初は3人〜4人の小さな規模で集約型を始め、現場から発注される仕事が増えるにつれ雇用数を拡大しているので、こうした例も参考にすると良いでしょう。
セミナーの最後には、共催者である福岡障害者職業センター所長の小島文浩さんが閉会挨拶を行いました。
基調講演「病院での障害者雇用の進め方〜働き方改革に資する障害者雇用〜」
パネルディスカッション
福岡障害者職業センター「障害者の企業等での就労を支える支援機関の取組みについて」
徳島県にあるホウエツ病院では、障害のある職員に新たな業務を担当してもらう際には、ジョブコーチを兼ねた事務局長がその業務を実際に行なった上で、障害のある職員にも理解しやすいよう、作業工程ごとのポイントを示したマニュアルを作成しています。当初は文字だけのマニュアルでしたが、分かりやすくするために、次第に写真を多く入れていきました。そのうちに、障害のある職員の側から、「これを作業する時にいつも持って行くことができれば、その場で見てちゃんとできているか自分で確認できる」と提案があったそうです。この提案を受けた事務局長は、持ち運びに便利なようにマニュアルを何枚かのカードに分割してリングで閉じ、首から下げた紐に付けることで、常に携帯できるようにしました。今では、障害のある職員が従事する全ての業務(約30種類)について、それぞれカード式のマニュアルが作成されていて、作業に行く際にはそれを受け取って首から吊り下げ、作業が終わって戻ってきた時に返却してもらうようにしています。マニュアルを見なくても仕事が確実にできるようになった段階で、マニュアルは使われなくなりますが、手順が曖昧になった時には再び利用されることもあります。こうしたマニュアルがあると、職場実習を受け入れる際や新たな職員が採用された際にも、とても役立っているようです。
気象庁では障害者活躍推進計画において「庁内職員の障害に関する理解の促進・啓発のため、気象庁独自でも研修や講演会を行う」旨を定めており、本年度も研修会が開催され、「障害のある職員を受け入れることで進化する職場」をテーマにした講演を行いました。
研修会は昨年同様にteamsで行われましたが、気象庁本庁だけでなく、全国の管区気象台や地方気象台からもオンラインで100名以上の職員が参加されたほか、当日受講できない職員は講演録画を視聴できるようにされました。
今年の研修の中では、川崎市から提供いただいた「ようこそ、バリアcaféへ〜二足歩行者ウォーカーの体験〜」の動画と人事院公務員研修所で行われたダイアローグ・イン・ザ・ダークの模様の動画も放映しました。
講演後には、事前に提出された職員からの質問にも回答しました。このうち障害があるという理由で平易な仕事しか与えないことや、障害に関係のない業務まで軽減するのは「差別」ではないのかとの質問に対しては、障害者雇用で求められる「合理的配慮」は個人の能力を発揮するためのものであり、仕事ができないからやらせないのではなく、業務を変えたり、指示の仕方を変えることで能力が発揮され、職場の戦力にすることを目指すものであると説明しました。
気象庁での職員研修も4年目を迎え、障害に対する理解や障害者雇用の意義について、職員の理解も進んできていることを感じます。
(講演資料)
障害者の法定雇用率の引き上げにより、新たに1人以上の障害者の雇用が義務付けられる事業者を中心に集めた障害者雇用セミナーが、徳島労働局の主催で2024年2月7日にあわぎんホール(徳島市)で開催され、製造、医療、福祉、サービス、運輸、土木・建設、小売などの民間事業者のほか公的機関も含めた50名以上の方が参加されました。セミナーでは、徳島労働局職業安定部長の篠原毅さんの挨拶に続き、地方障害者雇用担当官の堤智恵さんから「徳島県の障害者雇用の現状」について説明がありました。その後、当ネットワークの依田から「経営の観点から見た障害者雇用の効果と進め方〜持続的に成長できる職場づくり〜」について講演しました。引き続いて、もにす認定を受けている船場化成株式会社(徳島市)総務部長の村田道彦さんと赤澤海音さんから「定年まで働きたい!現場実習から4年半の道のり〜驚愕の大変身を経て現在も楽しく勤務できている理由〜」という対談形式の事例発表がありました。
講演では、健康経営や多様性という文脈の中で障害者雇用を考える視点が大切とした上で、障害者雇用の効果として、人材不足への対応、業務の効率化、同じ職場で働く従業員にも働きやすい環境整備、合理的配慮の理解が企業の強みになる、心理的安全性の高い職場づくり、管理職のマネジメント能力の向上、SDGsへの貢献といった点を挙げて説明しました。
事例発表では、上司である村田さんが赤澤さんの言葉をスムーズに引き出している姿から、心理的安全性の高い職場づくりをされていることを感じました。赤澤さんの「成長できるということが仕事にはあるんだ」「ここで終わりという限界を作らずにこれからも進化を続けていきたい」という言葉には、会場の皆さんも頷きながら聞き入っていました。
雇用率制度という言わば「ムチ」と助成金という「アメ」だけでは事業者が「腹落ち」することはないでしょう。今回のセミナーでは経営の視点で障害者雇用の効果を理解していただくとともに、その効果を本人や経営者の生の声で「裏打ち」することができたと思います。参加された事業者の皆さんには、「障害者雇用やってみるのも良いかな」と考えるきっかけになったのではないでしょうか。
(講演資料)
医療機関の障害者雇用Q&Aに新たに10問を追加しましたので、参考にしてください。
(追加質問)
Q4:定型的な単純業務を障害者に担当させるのは、差別に当たらないか。
Q6:「障害者差別解消法の合理的配慮」と「障害者雇用促進法の合理的配慮」は、どのように異なるのか。
Q12:専任の支援者(ジョブコーチ)向けの研修にはどのようなものがあるか。
Q13:地域の支援機関のサポートで利用できるものはあるか。
Q17:職場実習を行う場合に広い範囲から人材を集める方法はあるか。
Q18:医療機関では患者の個人情報を取り扱っているが、実習生に守秘義務は課せられるのか。
Q28:障害者雇用でテレワークを行う場合の注意点は何か。
Q41 :もっぱら身体を使う作業に従事することを条件に雇用された者が、自分には企画関係の業務の方が向いているので異動させてほしいと言っているが、どうしたら良いか。
Q45:就労定着支援システムSPIS(エスピス)とは何か。
Q47:一緒に働く障害者同士の関係が悪い場合は、どのように対応すればよいか。
愛媛県の南予地域就労支援ネットワーク連絡会の主催で、「公的機関での障害者雇用についての交流会」がオンライン形式で1月16日に開催され、愛媛県(えひめチャレンジオフィスを含む)、市町、国機関の24名を含む40名以上の方が参加されました。
愛媛労働局職業安定部職業対策課長の堀尾寿之さんの挨拶の後、話題提供として当ネットワーク代表の依田から「公的機関での障害者雇用の意義と取組」についてお話しし、特許庁や茨城県における障害者雇用の取組を紹介しました。引き続き、愛媛県保健福祉部生きがい推進局障がい福祉課在宅福祉課担当係長の大西沙織さんから「えひめチャレンジオフィスなど愛媛県庁の障がい者雇用」について報告がありました。
その後の意見交換では、職域開発、職場実習、障害のある職員向けの研修などの話題で盛り上がりました。一部の機関からは、押印廃止、電子申請などのペーパーレス化が進む中で、将来的に障害のある職員が担える事務補助業務が減少するのではないかとの懸念が伝えられましたが、ペーパーレス化を進める上では既存の膨大な紙文書のスキャニングが必要であり、当面の業務はむしろ拡大するのではないかという意見も出ました。
2021年度からスタートした交流会も4年目となり、それぞれの機関が抱えている課題やノウハウを率直に話し合えるようになってきました。全国的に見ても、こうした交流会はまだ限られた地域でしか開催されていませんが、参加した機関の皆さんには大変参考になっているようなので、是非、他の地域でも開催される動きが出てくることを期待します。
(資料)「公的機関での障害者雇用の意義と取組」
国の機関の職員に対する障害者の職場適応支援者養成セミナーの東京での令和5年度第2回目が、1月15日からAP市ヶ谷(東京都千代田区)で開催されました。国の機関からの参加者は18名でした。2時間の講義の最後に行われた質疑の時間では、「合理的配慮」として要求される内容にどこまで対応すべきかという質問が幾つかあり、公務部門の雇用の現場で抱える悩みが伝わってきました。雇用の分野での「合理的配慮」の目的や限界については、「公務部門の障害者雇用情報サイト」に掲載している「公務部門の障害者雇用Q&A」でも説明しています。このQ&Aは、過去のセミナーで質問された内容などをもとに作成していて、現在は第3版を公表していますので、参考にしていただけるかと思います。
(講義資料)
「公的部門における職場適応支援者の役割①~働き方改革に資する障害者雇用の進め方~」「公的部門における職場適応支援者の役割②~公務部門での障害者雇用事例に学ぶ~」