新着情報

障害者の雇用率制度が見直され、法定雇用率は現行の2.3%から令和6年4月には2.5%に引き上げられ、更に令和8年7月には2.7%に引き上げられることになりました。一方、医療機関に適用されている除外率は、令和7年4月に現行の30%から20%に引き下げられることになりました。医療機関とっては、法定雇用率の引上げと除外率の引き下げというダブルパンチの影響で、今後3年間は大変厳しい状況に置かれます。

法定雇用率の達成は法的義務であるため、未達成の場合はハローワークからの指導を受けることになります。実際に病院で障害者雇用を進めるにあたっては、事務職だけで進めようとするのではなく、医療職を含む院内職員が障害者雇用を進めることの意義を理解することが必要です。その際には、法的な義務というコンプライアンスの観点よりも、医療職の「働き方改革」に資するという視点が受け入れやすい面があります。

職員向けに説明を行う際には、当ネットワークが医療機関向けの研修等で使用している資料が参考になると思いますので、ご紹介します。

(説明資料)「病院での障害者雇用の進め方〜働き方改革に資する障害者雇用〜」

「障害の社会モデル」は、「障害」は、社会(モノ、環境、人的環境等)と心身機能の障害があいまってつくりだされるものと理解し、個人の側に特別な努力を求めるのではなく、ハード・ソフトの環境を整えることにより、個人の能力を十分発揮できるようにすることを目指す考え方です。

「障害の社会モデル」の考え方は、2006 年 に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」で示され、日本も 2014 年にこの条約を批准しています。2016 年 4 月から施行された「障害者差別解消法」や改正後の「障害者雇用促進法」でも、この考え方に基づき、国・ 地方公共団体・事業者に対して、不当な差別的扱いの禁止や合理的配慮の提供を求めています。

「障害の社会モデル」について理解するのには、知識として学ぶだけでなく「少数派」の体験をすることが効果的だと思われます。少数派の体験をすることで、多数派の発想で作られている製品・サービス・制度といった「環境」の側の問題が見えてくるからです。

こうしたことを目指す取組の一つとして、公益財団法人日本ケアフィット共育機構では「バリアフルレストラン」の体験プログラムを実施していますが、2023年3月24日〜25日の2日間、川崎市主催のイベントが川崎アゼリアで開催される機会に体験してきました。

川崎市ホームページでの紹介記事

「バリアフルレストラン」は、車いすユーザーが多数派となる架空社会にあるレストランに「二足歩行者」という障害を有する者が客として来店することで感じる違和感から、「障害」とは何かについて考えるきっかけが得られるものです。1組6人による30分の体験プログラムですが、レストラン内は車いすユーザーに最適化されており、天井は低く、椅子も置かれていない中で、「二足歩行者=障害者」が頭をぶつけたり腰を痛めたりしないように、行政の補助で僅かな数のヘルメットや椅子が用意されています。

「二足歩行者も使えるように最初から天井を高くすれば良いのに」と感じさせる中で、「多数派」という同じ価値観の人たちだけで決めた仕組みに少数派を適応させるような配慮ではなく、多様な人の参加で誰もが取り残されない仕組みを最初から作ることの大切さの理解に誘うプログラムでした。車いすユーザーの皆さんの演技も真実味があり、日頃感じていることを伝えてくれようとする細部の表現は、とても心に響く内容でした。

「バリアフルレストラン」の開催は、現在は自治体のイベントなどでの不定期の開催ですが、こうした体感の機会が増えれば、共生社会に向けた取組も進むと思います。

川崎市の「かわさきパラムーブメント」のホームページでは、「バリアフルレストラン」のイメージの動画を公開していますので、ご覧いただければと思います。川崎市のような取り組みが、他の自治体にも広まっていくことを期待しています。

「ようこそ、バリアCAFEへ〜二足歩行者ウォーカーの体験」

 

NPO法人全国精神保健職親会(vfoster)(理事長:中川 均)主催の日本財団助成事業報告会「医療–福祉–企業をつなぐ「ともに働く」地域連携ネットワーク」が東京都立産業貿易センター浜松町館(東京都港区)で開催され、オンライン参加と合わせて60名ほどが参加されました。

島根県浜田市にある清和会西川病院の林輝男医師による基調講演「医療–福祉–雇用の地域連携に向けて〜精神科病院からの就労支援〜」に続き、各地での取り組みとして、いわき市障がい者職親会理事長の石山伯夫さん、兵庫県精神障害者就労支援事業所連合会会長の野村浩之さん、兵庫県精神保健福祉センターの中谷恭子さんから報告がありました。その後、前半の登壇者4名に加え、全国就業支援ネットワーク代表理事の藤尾健二さん、東京中小企業家同友会会員の三鴨岐子さん、厚労省障害者雇用対策課長の小野寺徳子さんを交えたパネルディスカッションが行われ、当ネットワーク代表の依田がファシリテーターを担当しました。

パネルディスカッションでは、ネットワークに自治体を誘い込むコツ、障害者就業・生活支援センターの「基幹型」としての役割と自立支援協議会の活用、ネットワークの一員としての企業のノウハウの活用等について、登壇者から活発な発言がありました。

ネットワークについては、地域の課題や支援機関の役割について共通認識する場として、基幹相談支援センターや自立支援協議会(就労支援部会)の活用も指摘されました。就業支援は労働行政で広域的な対応なのに対して、生活支援は福祉行政で市町村単位の対応という違いはありますが、だからこそ障害者の雇用行政と福祉行政が一緒になって「連携」を促す明確なメッセージを発信し、連携を進めやすい具体的な仕組みづくりを進めることが期待されます。

また、企業が法定雇用率の達成のみを目的に雇用率ビジネスの利用に走らずに、障害者の能力を活かして戦力化していくためには、障害者雇用の経験やノウハウがある企業からの情報発信が効果的という指摘もありました。厚労省で検討中の助成金制度の見直しの中に「障害者雇用相談援助助成金」の新設が盛り込まれた趣旨も、こうした企業からのアドバイスを広げる目的があるとの説明がありました。

地域の取組事例からは、地域ごとに様々なネットワークづくりがあり、そこから様々なヒントが読み取れることを感じたパネルディスカッションとなりました。

 

医療法人芳越会の運営するホウエツ病院(徳島県美馬市)は、地域の2次救急医療を担う病院(病床数65床)です。今回、当ネットワークに参加いただいたのを機会に、同病院の障害者雇用の取り組みをまとめた資料を提供いただきましたので、ご紹介します。

同病院では、各部署からの業務の切り出し、ホワイトボードによるタイムスケジュールの可視化、全ての業務を対象としたカード式マニュアルの整備、体調変化などを把握しやすい業務日報の作成など、様々な工夫をしながら障害者雇用を進めています。障害者雇用の事例として紹介される病院は、都市部の規模が大きい病院が多いですが、地方の中小規模の病院でも工夫次第で障害者雇用を積極的に展開できることが分かる好事例なので、参考にしていただければと思います。

(資料)「ホウエツ病院における障がい者雇用紹介」

 

 

医療機関で働く障害のあるスタッフも増えてきましたが、院内で働く彼らや彼女らのことをどう呼ぶのか、医療機関によって呼称は様々です。医療機関には様々な専門職が働いているので、個人名を使わない場合は、看護師さん、薬剤師さん、技師さんなどの職名で呼ぶことも多いと思います。これに対して、障害のあるスタッフには明確な職名がないため、「障害者雇用の人」や「障害者雇用のスタッフ」と呼ぶことも多いようです。集中配置型の場合には、そのチームの組織名で「○○のスタッフ」と呼ばれたり、着ているユニフォームの色で「○○色のチーム」と呼ばれることもあるようです。

 福岡市にある博愛会病院でも、当初は「障がい者雇用者」という呼び方をしていましたが、特別支援学校からの実習を受け入れた際、実習生から「障害は受け入れないといけないと頭ではわかっているのですが、やっぱり(障害者という言葉は)嫌だなという気持ちはあります」「小学校や中学校の同級生にどんな仕事をしているか将来聞かれた時に、ちゃんと答えられるような名前が欲しい」と言われたそうです。そこで、障害者雇用枠で働いている職員にも話を聞いたところ、同じ言葉が返ってきたそうです。自分の仕事を誇れる名称が欲しいという思いを受け止め、病院では障害者雇用枠で働いている職員を含む職員の皆さんから広く意見を募集しました。

 色々な意見が出てきた中で採用されたのは、障害者雇用枠で働いている職員から提案された「ケアメイト」という名称でした。提案者の自筆で書かれたメモには、「ケア」=「人にしてあげたいという気持ち、社会貢献」と「メイト」=「仲間」で、「職員のみんなの支えになりたい」という思いを込めたと書かれていたそうです。自己紹介する際に、「私はケアメイトの仕事をしています。ケアメイトの仕事というのは〜」と、自分の仕事を誇らしく説明する姿を見るにつけ、呼称の持つ力というものを感じざるをえません。

兵庫県精神障害者就労支援事業所連合会(職親会)、全国精神保健職親会(vfoster)、兵庫県精神保健福祉センターの主催による研修会「精神科医療機関と連携したネットワークづくり」が令和5年3月1日に兵庫県こころのケアセンター(神戸市)で開催され、精神障害者の就労に関わる福祉事業所、就労支援機関、医療機関、行政機関、職親を含む民間事業所等から70名ほどが参加しました。

研修では最初に当ネットワークの依田から「精神障害者の雇用を支える地域の連携〜就労支援のネットワークづくり〜」をテーマに講演を行いました。講演では福祉的就労から一般就労に繋げていく流れを作るネットワークづくりの具体的な進め方として、「地域連携就労支援パス」の作成を提案しました。また、令和4年診療報酬改定で創設された「療養生活継続支援加算」により、医療機関の精神保健福祉士が関係機関と「顔の見える」関係を作りやすくなったことや、令和5年度に創設される「障害者雇用相談援助助成金(仮称)」により、雇用経験の豊富な事業所のノウハウを他の事業所に提供しやすくなることなど、ネットワーム形成に資する最新の動きも紹介しました。

講演に引き続き、全国精神保健職親会理事長の中川均さんの司会で座談会が行われ、北播磨障害者就業・生活支援センターの森一人さん、兵庫県精神障害者就労支援事業所連合会会長の野村浩之さんとともに、地域のネットワークづくりについて語り合いました。ネットワーク作りにおいては、自らの弱い部分を認識し、その部分を得意とするところと繋がる関係が大切ですが、座談会での話の中からも、医療機関、福祉事業所、就労支援機関等がそれぞれの役割分担で一般就労に向けた取り組みをしている事例や、行政機関が民間事業所のノウハウを活用してる事例など、それぞれの強みを活かしたネットワークづくりが紹介されました。

(資料)「精神障害者の雇用を支える地域の連携〜就労支援のネットワークづくり〜」

 

一般社団法人徳島県障がい者雇用支援協会の主催による「徳島『働こう!』交流会」が令和5年2月25日にオンライン方式で開催され、100名を超える参加がありました。「徳島『働こう!』交流会」は、雇用企業や支援機関の皆さんのほか、働いている障がいのある方も多く参加している点に特色があります。

交流会では、初めに「徳島県障がい者雇用支援協会・従業員表彰」の報告があり、勤続15年・10年・5年の表彰を受けられた皆さんの紹介があり、続いて「医療機関における障がい者雇用」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、最初に当ネットワークの依田から「医療機関での働き方」と題して、医療機関は専門職の多い職場であること、多忙である専門職の仕事を手助けする仕事がたくさんあることについて、具体的な事例で詳しく紹介しました。引き続き、徳島県内の2病院から障害者雇用の事例発表がありました。美馬市にある医療法人芳越会事務局長の岩脇美和さんからは、地域の2次救急医療を担うホウエツ病院(病床数65床)の障害者雇用について、各部署からの業務の切り出し、ホワイトボードによるタイムスケジュールの可視化、全ての業務を対象としたカード式マニュアルの整備、体調変化などを把握しやすい業務日報の作成など、現場で工夫された様々なノウハウの紹介がありました。鳴門市にある医療法人敬愛会が運営する南海病院(精神科301床)の精神保健福祉士の法華伸午さんからは、障害者雇用に取り組むに当たって、ハローワークのほか障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターの専門機関の協力を得て、看護補助業務等の職域開発に取り組んできたこと、障害のある方が一緒に働くことで就労支援に関わる医療職の熱量にも変化が生じてきたことなどが報告されました。両病院とも、人材不足への対応として障害者雇用を活用してくことについて、病院トップの理解が得られたことで、現場の職員の理解も進んでいったようで、今では「いてくれないと困る」というように、戦力として期待されているそうです。雇用率達成のためという受け身の姿勢ではなく、医療職の働き方改革につなげていくという視点は、他の病院にも大変参考になるものでしょう。

なお、この会の事務局を担当している障碍者就業・ 生活支援センターわーくわくの佐野さんによれば、パネルディスカッションを視聴された当事者のみなさんからは、「分かりやすかった」「病院で働くのもええなー」といったお話をいただいたとのことです。

(資料)「医療機関での働き方」