新着情報

「医療機関の障害者雇用ネットワーク」のホームページを立ち上げてから、平成28年6月で1年が経ちました。このホームページは、ネットワークの参加メンバーを中心とした皆さんからのご意見や情報を踏まえ、徐々に内容を充実させてくることができました。

当ネットワークは、医療機関自身の障害者雇用を進めるための情報提供を目的としていますが、最近になって「医療機関による一般就労に向けた支援についても情報を発信しては」という提案をいただきました。医療機関の中でも精神科医療機関については、平成30年に向けて精神障害者の雇用施策を進めていくうえでも役割が期待されており、ハローワークとの連携モデル事業も展開されています。そうした流れの中で、医療機関とハローワークに地域の就労支援機関、更には就労移行支援事業所等を含めた、一般就労に向けた支援のネットワークづくりが課題になっています。

こうした問題意識を医療機関の皆さんにも持ってもらう上で、参考になる情報を提供するため、「医療機関の障害者雇用ネットワーク」のホームページの中に新たに「医療機関による一般就労に向けた支援」のページを開設しました。

「医療機関による一般就労に向けた支援」のページ

新たに開設した「医療機関による一般就労に向けた支援」のページについても、引き続き皆さんからのご意見や情報をいただきながら、現場に役立つ情報を発信していきたいと考えていますので、宜しくお願いいたします。

平成28年6月15日

「医療機関の障害者雇用ネットワーク」

代表世話人  依田晶男

先日、将来看護部長になるような看護幹部職員を対象とした研修会で、障害者雇用について講義させていただく機会がありました。これまで障害者雇用を意識してこなかった方が多い中で、雇用率制度等の障害者雇用に関する制度的な説明や、医療機関での障害者雇用の実例を紹介した後に、全員参加のグループワークを1時間ほど行いました。グループワークのテーマは、「自分の病院で障害者雇用を進めることになり、看護部内で障害者雇用を進める責任者となったあなたは、現場の職員に対して障害者雇用を進める意義をどう説明するか」というものです。これまでの経験も踏まえながら、皆さん熱心に議論され、各グループからの発表も大変興味深いものでした。

最初に、ノーマライゼーションや「一億総活躍社会の実現」といった、理念に訴える意見が多く出されました。現場の職員への説明内容として、こうした理念が自然に出てくる背景には、医療という公共的なサービスに従事している看護職の意識の高さを感じ、とても嬉しく思いました。

一方、現実的な意見として、障害者雇用を進めることで看護職の業務負担がどの程度軽減できるか、データで示すと良いとの意見もありました。看護職等の医療職は、日頃からデータを重視しているので、その特性に即した説明は効果的と言えるでしょう。

しかしながら、何よりも説得力があるとされたのは、「明日は我が身」という考え方でした。同僚が脳卒中やうつ病等を発症し、退職を余儀なくされた経験は皆さん少なからずお持ちのようです。障害が生じても、できる仕事を見出して働き続けられる職場であれば、誰もが安心して働けます。障害者雇用を進めることで、職場にそのような文化が定着していくことこそ、障害者雇用を進める大きな意義だろうと、皆さん感じているようでした。

それにしても、これだけ熱心に看護幹部職員が障害者雇用の意義について語り合う姿を見ると、改めて医療機関は障害者雇用にとって大きな可能性のある職場だと感じさせられます。

平成28年度の障害者就業・生活支援センター中国・四国ワーカー連絡会inえひめ において、「どう考える!?拡がる就労支援~平成30年に向けて今すべきこと~」と題した講演を行い、中国四国9県の41センターから参加された約80名の就業支援ワーカーと生活支援ワーカーが受講されました。講演では、精神障害者の雇用については医療機関の連携が不可欠であり、障害者就業・生活支援センターが中心となり、医療機関から一般就労への流れを見える化する「地域連携就労支援パス」の作成を進めることが望ましいことなどをお話ししました。合わせて、医療機関に障害者雇用を働きかけることの意義と実例を説明しました。

(講演資料)

我が国の障害者雇用率制度は、昭和51年10月にスタートしました。当初は、身体障害者のみを対象としており、「法定雇用率」の算定も「実雇用率」の評価も、身体障害者の数のみで計算していました。

その後、昭和63年4月からは、「実雇用率」の評価に際して、知的障害者を雇用した場合も身体障害者を雇用したものと見做してカウントできるようになりました。この扱いは、身体障害者のための雇用枠を知的障害者が使うことであるため、平成10年7月から「法定雇用率」の算定基礎の対象に知的障害者も加えることで、体系的な整理が図られました。これに伴い、「法定雇用率」は1.6%から1.8%に引き上げられました。

精神障害者についても同様の経緯を辿り、平成18年4月からは「実雇用率」の評価に際し、身体障害者又は知的障害者を雇用したものと見做してカウントできるようになりました。そして、平成30年4月からは、「法定雇用率」の算定基礎の対象に精神障害者も加える措置が講じられ、漸く三障害同一の扱いが実現することになりました。

(参考)法定雇用率の対象となる障害者の範囲の変遷

医療機関での障害者雇用の実際の状況について、積極的に見学を受け入れている病院があります。見学を希望される場合には、それぞれの担当の窓口にご連絡ください。

国立がん研究センター中央病院

(連絡先)

人事課:福田(03-3547-5201 内線2567)

 

奈良県立医科大学付属病院

(連絡先)

人事課 障害者雇用推進係:岡山(0744-22-3051内線2140又は PHS 070-6549-5894)

独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)が実施している、日本看護協会の認定看護管理者教育課程サードレベルの研修において、前年度に引き続き平成28年度の研修でも障害者雇用が取り上げられ、当ネットワークから講師として参加し、3時間の講義を行いました。前半では、看護職を始めとした病院スタッフが働きやすい環境づくり、看護業務の効率化、一人一人の能力を最大限に生かすという3つの視点に重点を置いた講義を行いました。後半では、地域の就労支援機関の支援を受けながら積極的に障害者雇用に取り組んでいる病院の事例を紹介するとともに、自分の病院で障害者雇用を進めることになり看護部内で責任者となった場合、(1)障害者雇用を進める意義について現場の職員にどのように説明し、(2)障害者の担当する業務としてどのような業務を切り出すか、についてグループワークを行いました。この研修には、各病院から看護部長・副看護部長クラスの看護師28名が参加し、JCHO病院のほか、自治体病院、済生会病院、厚生連病院、民間病院からも参加がありました。

(講義資料)

関西地方にある公的病院グループの病院では、従来、身体障害者中心に障害者を雇用してきましたが、定年年齢に達する者が続いたこともあり、病院として法定雇用率水準の維持が厳しくなってきました。このためハローワークに相談してきましたが、身体障害者で適当な方を見出すことができずにいました。そうした中で、地域にある公的な就労支援機関に相談した結果、新たに知的障害や精神障害のある方の雇用にチャレンジしてみることになりました。就労支援機関は、病院を訪問し、院内各部門の仕事から幾つかの具体的な業務を提案し、その業務に合う人材も捜してくれました。病院側も就労支援機関から学びながら、業務を分かりやすく示す作業の手順書を作成しました。こうして新たに障害のあるスタッフが複数雇用され、その後も手順書の改良等を重ねながら、安定した就労を実現することで、障害者の雇用数も増えていきました。他の病院からの見学も受け入れ、見学した病院での新たな雇用にもつながっています。「学ぶ側」が「伝える側」へと進化していく、これも障害者雇用の喜びの一つでしょう。

質の高い医療提供体制を構築するためには、勤務環境の改善を通じ、医療従事者が健康で安心して働くことができる環境整備を促進することが重要です。平成26年10月1日には医療機関の勤務環境改善に関する改正医療法の規定が施行され、各医療機関がPDCAサイクルを活用して計画的に勤務環境改善に取り組む仕組み(勤務環境改善マネジメントシステム)が導入されました。

(参考1)医療勤務環境改善の意義(リンク)

(参考2)勤務環境改善マネジメントシステムの概要(リンク)

各医療機関において、医師、看護職、薬剤師、事務職員等の幅広い医療スタッフの協力の下、一連の過程を定めて継続的に行う自主的な勤務環境改善活動が進められるよう、「勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き」も策定されています。手引きでは、医療従事者の勤務環境改善の例が示されていますが、特に「③働きやすさ確保のための環境整備に関する項目」の例示には、医療機関で障害者が従事している業務に関わるものが見られます。

(参考3)医療分野の「雇用の質」改善のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(リンク)

(参考4)働きやすさ確保のための環境整備に関する項目(例)

障害者雇用が進んでいる事業所では、障害のあるスタッフが従事する仕事を切り出す過程で、業務の見直し・再編が進み、全体として業務の効率化が進んだ事例が数多く報告されています。

医療機関は、医師・看護師・薬剤師等の国家資格を持った職員が中心の組織であるため、業務効率化の効果は他産業に比べても大きいと言えます。医療スタッフが毎日行う仕事の中には、国家資格を有する職員が行う必要のないものも含まれています。一例をあげれば、点滴チューブが患者の体から抜けないように固定する様々な形状のテープは、看護師等が業務の片手間に作成している場合が多いですが、こうした作業は障害のあるスタッフが得意とする作業の一つです。障害者雇用を始めることで、こうした作業から看護師等が解放されれば、患者対応など国家資格を活かす業務に専念でき、残業も減らせるでしょう。カルテや諸文書の整理などの事務系の仕事についても、障害者雇用により専門職の負担が解放されています。

また、ベッド枠や点滴台の清掃など、日頃は手の回らない業務を障害のあるスタッフが行うことで、医療スタッフが気持ちよく仕事ができるようになり、患者家族からも評価され、病院全体のイメージアップにもつながっています。

このほか、職員の休憩室や当直室の清掃による勤務環境の改善や、障害のあるスタッフが元気に挨拶することで職場の雰囲気が明るくなるなどの効果も指摘されています。

このように、障害者雇用を進めることによって、「医療従事者の勤務環境」が改善されていけば、看護師等の離職も減り、新たな人材確保もしやすくなります。看護師等の人材確保に苦労されている医療機関の皆さんには、先進事例が示す障害者雇用を契機とした業務効率化等を通じた「医療従事者の勤務環境の改善」は、是非、意識していただきたいものです。

(参考5)看護補助業務での職域開発

「国家資格を持っている障害者を捜しているが、なかなか見つからない」というのは、障害者雇用に消極的な医療機関が良く使う言い訳ですが、実際に国家資格を持っている障害者が現れた時、その者を受け入れる用意ができているかどうかは疑問でしょう。それ以前の問題として、現に雇用している医師や看護師などの医療スタッフが病気や怪我により障害のある状態になるリスクについて、あまり意識もされていないようです。

障害は先天的なものだけでなく、様々な疾病や事故に起因するものも多くあります。身近なものとしては、脳卒中や心疾患、糖尿病、がん、外傷、更にはうつ病等のメンタルな疾患でも、障害のある状態になることがあります。そのように病気や怪我の治療のため休職した医療スタッフが職場復帰する際、職場は受け入れるだけの環境になっているでしょうか。

障害の種類や程度が異なれば、仕事への支障の生じ方も異なってきます。例えば、医師が下肢障害で車いすを使う状態になったとしたら、診察室には入れても、手術を行うのは難しくなるでしょう。看護師が障害により患者さんを抱え上げることができなくなれば、直接的な身体看護を一人で行うことは難しくなるでしょう。従来は、こうした不都合があると、医師や看護師の業務は務まらないと判断されて、離職を余儀なくされる方も少なくありませんでした。

しかしながら、平成27年4月の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行と合わせて改正された障害者雇用促進法により、民間の医療機関を含む雇用事業者には、法的義務として「合理的配慮の提供」が求められるようになりました。「合理的配慮」の内容としては、ソフト面とハード面の両方の配慮が含まれます。ソフト面の配慮としては、本人の能力や経験を最大限活用できるように業務内容を見直し、配置部署の選択をすることもあります。外科系医師は手術ができなくても診察で能力を発揮できるでしょうし、看護師は医療相談などで患者さんの話を深く聴き、寄り添う看護を行うことも可能でしょう。ハード面の対応としては、障害が業務の支障とならないような施設・設備・機器等の面での工夫が求められます。このような「合理的配慮」についても、事業者に「過重な負担」となる配慮までは義務付けられていませんが、過重かどうかの判断は難しく、本人の意向を踏まえながら、可能な範囲でできるだけの配慮をすることが求められます。

具体的な事例に即してどのような配慮が効果的か、専門家の意見を聞くこともできます。地域障害者職業センターには、全国の数多くの事例に基づく豊富なノウハウが蓄積されています。相談すれば、障害の種別に即した具体的な対応方法を示してもらえるでしょう。また、地域障害者職業センターでは、うつ病の復職支援(リワーク)事業も行っていますので、うつ病で休職されている方の職場復帰に活用することもできるでしょう。

このように、医療機関で働いている医療スタッフが障害の状態になっても能力を活かせる職場環境づくりを進めれば、医療機関にとって貴重な戦力である専門職の離職を防止できるだけでなく、新たに障害のあるスタッフを雇用するのにも役立つでしょう。

(参考)職場のメンタルヘルス環境に及ぼす障害者雇用の効果