職場のメンタルヘルス環境に及ぼす障害者雇用の効果

労働安全衛生法の改正により、平成27年12月から従業員50人以上の事業所では、ストレスチェックの実施が義務付けられました。ストレスチェックの目的は、職場のストレス状況を確認し、メンタルヘルス環境を改善するという一次予防にあります。この職場のメンタルヘルス環境と障害者雇用との間には、どのような関係があるのでしょうか。

この点について、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターが2016年3月に発表した「精神障害者の雇用に係る企業側の課題とその解決方法に関する研究」(調査研究報告書N0128)には、興味深いデータが掲載されています。メンタルヘルス不調により1か月以上継続して仕事を休んだ社員が職場に復帰しているかどうか、復帰した場合に短期間のうちに再発等せずに安定的に働き続けられているかどうかを、職場のメンタルヘルス環境の指標として分析しているのです。

この調査では、業種や企業規模に配慮した7,000社を対象にアンケート調査が行われ、約2,000社から有効回答(回答率30%)があり、医療・福祉業からも204社ほどの回答がありました。医療・福祉業の状況を全産業平均(【 】内に記載)と比較して見ると、医療・福祉業では休職後に職場復帰した者について、

「ほとんどが安定的に働いている」14.7%【22.3%】

「半分以上は安定的に働いている」16.2%【18.2%】

「安定的に働いている者は一部」17.2%【14.2%】

「ほとんどの者は安定的に働いていない」14.7%【8.8%】

「復帰する者がほとんどいない、1か月以上連続して休む者がいない」24.5%【24.2%】

「無回答」12.7%【12.4%】

となっていて、職場復帰後に安定的に働けている事業所の割合は、他の産業と比べても低い状況にあることが浮かび上がっています。

注目されるのは、これらのデータと障害者雇用の経験の有無との関係です。精神障害かどうかに関わらず、現在、障害者を雇用している事業所では、メンタル不調の休職者が職場復帰後に安定的に働けている割合が高いという傾向が明確に表れています。これに対し、現在、障害者を雇用しておらず、過去に精神障害者を雇用した経験もない事業所では、そもそも職場復帰する者や1か月以上の休職者がいない割合が高く、メンタル不調時の休職や職場復帰のハードルが相当高いことが伺えます。

(参考)雇用経験別の職場復帰状況

障害者雇用を進めている職場では、職員同士の関係も含め、職場の雰囲気が良くなったという声を良く聞きます。障害者雇用を進める際には、それぞれの障害や能力に即した職域開発が行われますが、そのことが普通に行われる職場文化が形成されていくことは、メンタル不調者が職場復帰しやすい職場環境につながるように思います。今回の調査結果は、これまで障害者雇用の現場で直感的に感じられていた障害者雇用の効果というものが、データによって裏付けられたとも言えるでしょう。

(資料)「精神障害者の雇用に係る企業側の課題とその解決方法に関する研究」(2016年3月)