利用者の視点で「合理的配慮」に取り組む

医療機関には、日々様々な方が来院します。病気や怪我などで一時的に心身機能が低下している方のほか、障害のために日常的に心身機能が低下している状態の方もいます。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」により、事業者には「合理的配慮」の提供が求められていますが、心身機能の低下した利用者が多く利用される医療機関には、「合理的配慮」のモデル的な取り組みが期待されると言えるでしょう。

新しい医療機関には段差はほとんどなく、車いす用のトイレも整備されています。段差がないという意味でバリアフリーをとらえれば、医療機関は申し分のないバリアフリーな空間でしょう。しかしながら、「合理的配慮」が狭い意味でのバリアフリーにとどまらないことは、十分理解する必要があります。身体機能の障害には、歩行障害以外にも上肢の障害、視覚障害、聴覚障害、内部障害といったものがあり、更には知的障害、発達障害、精神障害など身体機能以外の障害もあります。障害の種類や程度によって、不自由を感じることにも違いがあり、どのような「合理的配慮」が求められるのかも個人によって様々で、何か一つの配慮があれば足りるというものではありません。

勿論、できるだけ多くの方が利用しやすいよう、予め様々な方の利用を想定した配慮を組み込んだ製品やサービスを用意する「ユニバーサルデザイン」の発想は大切ですが、「合理的配慮」として何が求められるかは、結局は本人から教えていただく視点が必要でしょう。

一方で、「合理的配慮」について説明する障害のある方の側にも、自分が知らない配慮は伝えられないという制約があります。こうした状況を少しでも改善するためには、「合理的配慮」に関する事例を広く収集し、障害のある方と事業者側が共有することが効果的だと考えられます。

公益財団法人共用品推進機構が平成27年に実施した「医療機関の良かったこと調査」は、障害のある方等が医療機関を利用した際に「良かった」と感じた配慮について、利用者の視点で取りまとめたものです。調査報告書では、医療機関を利用した際の外来と入院の場面別に、人的対応と設備面に分けて、一人一人の具体的な意見が記載されているので、医療機関の皆さんが「合理的な配慮」について考える上でも、大変参考になるでしょう。この報告書の中から、幾つかの場面別にヒントとなる事例について、順次紹介していきます。

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