医療機関の障害者雇用Q&A(第2版)

医療機関で障害者雇用を進める際に、担当者の皆さんから良く聞かれる質問について紹介するコーナーです。

 

【基本事項】

Q1 法定雇用率を満たすためには、事務部門だけでなく病院全体で障害者雇用に取り組む必要があるが、医療職からは「ただですら忙しいのに、障害者雇用でさらに負担が増える」と抵抗されそうだ。どうすれば医療職にも理解してもらえるか。

Q2 職員数の多い大規模な病院の場合、障害者雇用率達成に必要な人数も多くなるが、いきなり大量の業務を切り出すことも難しいので、取組みを始めやすい人数の目安等はあるか。

Q3 知的・精神障害者の業務内容について、病院側が依頼したい内容と本人が得意な分野が異なっている場合、どうしたらよいか。

Q4 定型的な単純業務を障害者に担当させるのは、差別に当たらないか。

Q5 障害特性に合わせた合理的配慮とは、例えばどのような配慮を言うのか。また、本人が必要とする配慮について、職場側はどのように知ることができるのか。

Q6 「障害者差別解消法の合理的配慮」と「障害者雇用促進法の合理的配慮」は、どのように異なるのか

Q7 障害者を派遣してもらったり、既存の業務委託先で障害者を雇用してもらったりした場合、病院の法定雇用率にカウントできるか。

Q8 法定雇用率を維持していくために、人材を継続的に確保するにはどうすれば良いか。

Q9 障害のある職員を各職場に分散配置する方法と特定部門に集中配置する方法をどう使い分ければ良いのか。

Q10 専任の支援者は配置した方が良いのか。

Q11 ジョブコーチは専任が望ましいと思うが、雇用する障害者が少数の場合は事務担当者がジョブコーチを兼務することでも足りるか。

Q12 専任のジョブコーチ向けの研修にはどのようなものがあるか。

Q13 地域の支援機関のサポートで利用できるものはあるか。

 

 【採用前・採用時】

Q14 障害特性を採用前に確認するのに活用できる資料はないか。

Q15 採用前に実地で障害特性や働きぶりを確認する方法はないか

Q16 現場には職場実習を受け入れるだけの余裕がない。

Q17 職場実習を行う場合に広い範囲から人材を集める方法はあるか。

Q18 医療機関では患者の個人情報を取り扱っているが、実習生に守秘義務は課せられるのか。

Q19 職場実習を行う際に傷害保険等に加入する必要はあるか。  

Q20 採用面接で障害の状況を具体的に聞くことは差別にならないか。

Q21 選考過程に実地選考を組み込む場合、どのような点を評価すれば良いか。

Q22 障害の情報を職場内でどこまで共有して良いのか。

Q23 連携先の就労移行支援事業所を見分ける方法はあるか。

Q24  障害者に就労支援機関への登録をしてもらうことは可能か。

 

【採用後】

Q25 採用後の配属先の拒否感や抵抗感をなくすにはどうしたら良いか。

Q26 採用した者の職場適応に問題がある場合にどこに相談できるか。

Q27 既存の仕事で能力を発揮できない者のために新たな業務を切り出す方法はあるか。

Q28 障害者雇用でテレワークを行う場合の注意点は何か。

Q29 自分の本来業務に加えて障害のある職員のサポートまで手が回らない。

Q30 現場で生じている問題が障害に起因するものである場合は、本来は必要な注意でも障害に配慮して控えるべきか。

Q31  障害を理由に休暇・欠勤を重ねたり,事務負担を軽くするよう相当な範囲を超えた申出に対して、どのように対応すれば良いのか。

Q32 仕事以外のサポートまで行う必要はあるのか。

Q33 勤怠状況が安定しない原因が家庭問題である場合、職場としてどの程度関与したらよいのか。

Q34 モチベーションが低下している者にどう対応したら良いのか。

Q35 周囲から差別されているという訴えにどう対応すれば良いか。

Q36 仕事が分からなくても聞きに来ない者にどう対応すれば良いのか。

Q37 勤務が安定せず出社できない者にどう対応したら良いか。

Q38 予想以上に働いて評価も高かった者が突然調子を崩したが、どのような原因が考えられるか。

Q39 面談で不調の要因を把握したいが、面談自体が負担になると言われて対応できない。

Q40 仕事が簡単過ぎると言われたが、難易度の高い仕事ができるとも思われない。

Q41 もっぱら身体を使う作業に従事することを条件に雇用された者が、自分には企画関係の業務の方が向いているので異動させてほしいと言っているが、どうしたら良いか。

Q42 コミュニケーションの仕方がストレートで周囲から敬遠されている者に対し、どのように指導したら良いか。

Q43 患者の誘導等患者に接するような業務を行う際に、注意すべきことはあるか。

Q44 外見からは把握するのが難しい精神障害者の心身の状況について、効果的に把握する方法はないか。

Q45 就労定着支援システムSPIS(エスピス)とは何か。

Q46 障害のある職員が受診している医療機関と連携するにはどうすれば良いか。

Q47 一緒に働く障害者同士の関係が悪い場合は、どのように対応すればよいか。

Q48 支援担当者の異動時に不調になるのを防ぐ方法はあるか。

 

【基本事項】

 

Q1 法定雇用率を満たすためには、事務部門だけでなく病院全体で障害者雇用に取り組む必要があるが、医療職からは「ただですら忙しいのに、障害者雇用でさらに負担が増える」と抵抗されそうだ。どうすれば医療職にも理解してもらえるか。

 

A:障害者を雇用してから院内で働く仕事を探す方法だと、医療現場からは押し付けられ感を持たれがちです。むしろ、医療職の負担を軽減する目的で、医療職でなくてもできる仕事を切り出す段階から医療職に参加してもらえれば、医療職の協力も得やすいでしょう。更に、医療職の幹部(看護部長、薬剤部長等)とともに、実際に障害者が医療現場で戦力として活躍している医療機関を視察すれば、より具体的なイメージを持てるでしょう。

 

Q2 職員数の多い大規模な病院の場合、障害者雇用率達成に必要な人数も多くなるが、いきなり大量の業務を切り出すことも難しいので、取組みを始めやすい人数の目安等はあるか。

 

A:ホームページで紹介している国立がん研究センター中央病院では、当初は5人の雇用から開始し、チームが安定して各部門から発注される業務が増えるのに伴い、雇用数を順次増やしていきました。雇用した者それぞれの特性も見ながら、ジョブコーチが指導のノウハウを習得していくには、スタート時は5人程度が適当かと思われます。比較的に余裕のある体制で始めて、各部門から仕事の受注を進め業務量を確保するとともに、翌年度の採用に向け職場実習を受け入れることで、段階的な雇用数の拡大を自信をもって進めることが可能となります。

 

Q3 知的・精神障害者の業務内容について、病院側が依頼したい内容と本人が得意な分野が異なっている場合、どうしたらよいか。

 

A:障害者雇用においては、障害特性と業務内容のマッチングが重要ですが、新たに障害者雇用を行う場合には、雇用する障害者を先に決めるのではなく、業務内容を先に決めてから、その業務に適性のある障害者を募集して採用することが大切です。どのような業務内容にするかは、やってもらうと助かる業務の候補を現場から提案してもらい、就労支援機関に現場を見てもらった上で、障害のあるスタッフが担える業務を選定すると良いでしょう。こうして選定された業務を対象に採用募集を行い、事前の職場実習で適性を確認できた者を採用すれば、医療現場の負担が軽減できる障害者雇用が実現できるでしょう。

 

Q4 定型的な単純業務を障害者に担当させるのは、差別に当たらないか。

 

A:障害のある職員にどんな仕事を担当させるか悩むことも多いと思います。障害の種類・程度や特性は個人ごとに様々であり、それぞれに応じた適切な合理的配慮を行えば高い能力を発揮して活躍することができるという前提を踏まえることが大切で、その意味では障害のある職員の個々の能力・適性・特性を十分に把握し、何ができるのかを丁寧に把握することが第一歩です。障害者手帳を保有している人も様々であり、精神障害のある人の中には高学歴だったり、様々な資格やスキルを有している人も多いですし、知的障害のある人の中にもワードやエクセルを使える人も少なくありません。一方で、障害者枠での採用を希望される方では、スキル的には他の職員と遜色がなくても、コミュニケーションが苦手だったり、同時並行的な作業や臨機応変な対応が難しかったり、体調が不安定だったりするため、多かれ少なかれ何らかの配慮が必要なことが多いものです。

 このため、個別に障害のある職員との間でコミュニケーションを図ることにより、本人に従事してもらう職務とそれに必要な合理的配慮を検討することが重要であり、先入観や固定観念の下に単純・単調・軽易な仕事を割り当てるという発想は適当ではありません。

 障害のある職員に従事してもらう仕事として、軽作業等の定型的な業務が想定される場合がありますが、こうした業務が適しているのは、高度・複雑な作業や臨機応変な対応が苦手な人でしょう。こうした職員でも、定型的な業務だと予想以上に能力を発揮して、職場の同僚から「やってもらって助かった、ありがたい」と評価される場合があります。このように職場で評価されることで、本人も職場に貢献できていることを実感でき、定着にもつながることが知られています。

 一方で、障害があるということだけで、本人の特性や能力を考慮せずに定型的な業務を担当させてしまうと、本人の能力を活かす機会が奪われ、モチベーションも上がらず職場不適応を起こすことにもなります。このことは障害を理由とする差別として批判されかねません。

 個人の能力を最大限に発揮してもらうための合理的配慮について検討し、組織に貢献できるような仕事を割り振ることで、本人も周りの職員も満足できるような障害者雇用を進めることが望まれます。

 

Q5 障害特性に合わせた合理的配慮とは、例えばどのような配慮を言うのか。また、本人が必要とする配慮について、職場側はどのように知ることができるのか。

 

A:合理的配慮とは「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じること」とされています。バリアフリーのようなハード面がイメージされることがありますが、実際には業務の指示の仕方や勤務形態などのソフト面も大きな要素です。

例えば、聴覚による情報入手が困難な者には、文書や図による情報伝達をすることで、情報を確実に伝えることも合理的配慮です。聴覚障害だけでなく、知的障害や発達障害にもこうした配慮が効果的なことがあります。一度に複数の指示をされると混乱する者には、工程ごとの作業内容を明確にして、一つ一つ確認して作業できるようにすることも合理的配慮です。発達障害で感覚過敏が伴う者には、耳栓やサングラスの装着が合理的配慮になることもあります。

障害者本人が能力を発揮する上でどのような配慮が必要かは、障害の種類で一律に判断できるものではなく、個別性の高いものです。採用時においては本人が自分で説明できれば良いのですが、自己理解が十分でない場合や、コミュニケーションがとりづらい場合は、採用に関わった支援機関から聞くのも良いでしょう。就労支援機関が関わる形で、就労パスポートやナビゲーションブックのように、本人の障害特性の説明書が作成されている場合もあります。採用前の職場実習を行う場合は、事前の打ち合わせの際に就労支援機関から合理的配慮の内容が示され、実習の中でそれを確認することもできます。採用後には、定期的な面談を行う中で、本人が仕事をうまくできていない部分があれば、それを改善するにはどうしたら良いかを、本人と就労支援機関も交えて検討することで、より効果的な合理的配慮が実現できるでしょう。

 

Q6 「障害者差別解消法の合理的配慮」と「障害者雇用促進法の合理的配慮」は、どのように異なるのか。

A:「合理的配慮」の考え方は、障害の「社会モデル」(作業や行動に支障が生じていることを個人に起因する問題と捉えるのではなく、個人を取り巻く周囲のハード・ソフトの環境や制度等に起因する問題として捉え、社会(環境)を改善していくことを重視する考え方)に基づき、障害者権利条約で示されたものです。この考え方は、条約の批准に伴い国内法にも取り入れられ、障害者差別解消法の制定と障害者雇用促進法の改正に結実されました。

 障害者差別解消法の合理的配慮は、もっぱら事業者がサービスを提供するなど事業を行うのに当たり配慮するものです。障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めています。医療機関にとっては、患者に対する医療サービスの提供という面での配慮で、具体的には診療、説明、手続といったことが想定されるでしょう。

 一方で、同法第13条では、「事業主」としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者雇用促進法の定めによるとしています。ここで留意すべきは、サービス提供等の場面と雇用の場面とでは、合理的配慮の目的にも違いがあるということです。

 その背景には、雇用の場面では障害者も労働の対価として賃金を得る労働者であることがあります。障害者雇用促進法では、基本的理念として、障害者である労働者に対して「職業に従事する者としての自覚を持ち、その能力の開発及び向上を図り、有意な職業人として自立するように努めなければならない」(第4条)とした上で、事業主に対しては「障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有する」(第5条)としています。雇用場面ではサービス提供等の場面とは異なり、障害者本人の職業人として自立しようとする努力を前提とした上で、「労働者としての能力の有効な発揮」のための合理的配慮が求められているわけです。ところが、障害者雇用の現場では、両者の違いについて混同されていることもあるようです。「障害があるので働けないのは仕方ない」として、能力が発揮されるための工夫をしないまま、雇用率を維持する目的で「来てくれるだけで良い」といった扱いをするのは、決して合理的配慮ではありません。

 雇用の世界は、医療や福祉サービスの世界ではありません。賃金を得て働く一人の労働者として、能力を最大限に発揮して職場に貢献することで、働く本人の自己効力感や周囲の評価も高まり、安定的な就労につながります。実際に事業主が取り組んでいる工夫事例については、全国の都道府県労働局・ハローワークと独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構等を通じて取集し厚生労働省が取りまとめた「合理的配慮指針事例集」があり、また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する「障害者雇用事例リファレンスサービス」では業種ごとの合理的配慮事例の検索もできるので、参考にすると良いでしょう。

 

Q7 障害者を派遣してもらったり、既存の業務委託先で障害者を雇用してもらったりした場合、病院の法定雇用率にカウントできるか。

 

A:雇用率制度は雇用することを前提とした制度なので、障害者を派遣してもらっても病院の雇用率にはカウントされません。委託先での雇用の場合も同様です。常勤・非常勤は問いませんが、雇用契約を締結し、自ら雇用管理を行う必要があります。障害者雇用のために外注業務の一部を直接実施業務に戻すことを考える病院もありますが、敢えてそのようなことをしなくても、病院職員が行っている業務の中から比較的定型的な作業を切り出すことは十分可能です。切り出し作業を行うことを面倒に思う現場もあるでしょうが、そのような現場には非効率的で無駄の多い作業があることが多いようです。切り出しを行うことで業務の生産性を高め、働きやすい職場づくりを進める契機としてはいかがでしょう。

 

Q8 法定雇用率を維持していくために、人材を継続的に確保するにはどうすれば良いか。

 

A:障害者雇用の労働市場は近年では売り手市場になっていて、新型コロナウイルスの影響で雇用全体が縮小する中でも、障害者の雇用は維持される傾向にあり、人材確保が厳しい傾向に大きな変化はありません。現場から発注される業務量が増えるのに合わせて雇用数を拡大するには、確実な人材確保ルートを開拓しておく必要があります。採用を行う際、ハローワークの求職登録者から選ぶ方法もありますが、面接だけでは分からないことも多いので、できれば事前に実習をして見極めることをお勧めします。職場実習を行う機関としては、地域の就労支援機関もありますが、送り出せる人材の数が限定的なのに対し、毎年一定数の卒業生を輩出する特別支援学校は、安定的な人材供給ルートになる可能性が高いです。特別支援学校では教育プログラムとして、高等部の2年生や3年生で職場実習が行われるため、毎年実習を受け入れることで、関係を強化することができます。

 

Q9 障害のある職員を各職場に分散配置する方法と特定部門に集中配置する方法をどう使い分ければ良いのか。

 

A:採用された障害のある職員の配置については、大きく分けて、本人の能力・適性に応じて複数の部署に分散して配置する「分散配置」と、特定の職務を選定して集めて職員を集中的に配置する「集中配置」の2つの方法があります。

「分散配置」は、日常的な支援の必要性が少ない者を想定しており、ノーマライゼーションやインクルーシブの理念からは「分散配置」が望ましいと考えられます。一方で、「分散配置」には、①配置先の上司等が兼務で支援するため負担が大きい、②支援担当者が短期間で異動するためノウハウが蓄積されにくく就労が不安定になりやすい、③障害の特性と仕事のマッチングができていないと戦力にならない、④体調を崩して休むと仕事に穴が開いてしまう、⑤仕事が合わない場合は他職場への異動も必要となるといった課題があります。

これに対して「集中配置」は、日常的な支援が必要な者を想定していますが、①専従の支援体制が作れるので支援担当者の負担感が軽減できる、②支援担当者の長期的な配置が可能なのでノウハウを蓄積しやすい、③仕事の種類を多様にできるため障害の特性や体調に合わせて仕事を割り振れる、④体調を崩して休んでも他のメンバーが代替できる、⑤仕事が合わない場合はチーム内での調整が可能といったメリットがあると言われています。

実際にはほとんどの職場が「分散配置」であり、各職場の上司等が兼務で指導しています。支援がなくても戦力になれる者は「分散配置」が適切と考えられますが、「分散配置」だと能力が発揮できないが「集中配置」だと戦力になれる者がいることも事実です。二者択一ではなく、「分散配置」を基本としながらも、選択肢として「集中配置」の職場も用意しておくと、障害者雇用の受け入れ幅を広げられるとともに、職場への定着率が高まることが期待されます。

 

Q10 専任の支援者は配置した方が良いのか。

 

A:医療機関の障害者雇用の現場は、ほとんどが「分散配置」であり、各職場の上司等が兼務で指導しています。この場合には、直属の上司や同じ課室内で本人の近くで働く同僚が支援担当者としての役割を担うことになります。

一方で、専任の支援担当者が配置された「集中配置」には、専任の支援担当者が必要とされることが多いです。この場合には、外部から採用・委嘱されることも多いですが、医療機関のことを理解しない者が職場に入ることには現場の不安もあるため、医療職場や業務に精通した定年再雇用者を支援担当者に当てる例もあります。職員の希望と適性を踏まえ、定年退職前から支援スキルを習得する研修を受講させることで、適任者を確保していくのも現実的でしょう。

 

Q11 ジョブコーチは専任が望ましいと思うが、雇用する障害者が少数の場合は事務担当者がジョブコーチを兼務することでも足りるか。

 

A:複数の障害者をチームで配置する集中配置の場合には、ジョブコーチの配置が不可欠です。ジョブコーチを人事課の職員が兼務で行う例もないわけではありませんが、本来業務の片手間で不慣れな支援業務を行うため、問題が生じてからの事後対応になり、兼務する職員自身の負担も大きいので、あまりお勧めできません。専任でジョブコーチを配置する場合、当初は障害者5人にジョブコーチ1人程度から始めるのが適当でしょう。この体制で運営してみて、業務のスピードが上がり受注量も増えるなど安定して運営できてくれば、雇用数を増やすことができます。ジョブコーチの不在日も考えると、ジョブコーチ2人で10人前後の障害者をサポートする体制を基本にして、安定的に働いている障害者の割合が増えれば、ジョブコーチ1人あたり7〜8人程度の障害者のサポートも可能でしょう。なお、専任ジョブコーチには、定年再雇用者のように院内業務に通じた者が就任する例も多く見られます。ジョブコーチの業務には向き不向きがあるので、適性がありそうな者に外部の専門研修を受講させて配置すると良いでしょう。

 

Q12 専任のジョブコーチ向けの研修にはどのようなものがあるか。

 

A:職場に配置される専任の支援者(ジョブコーチ)向けの研修としては、「企業在籍型職場適応援助者養成研修」があり、独立行政法人高齢・障害・求職雇用支援機構のほか厚生労働省が指定する民間の養成研修機関(特定非営利活動法人ジョブコーチ・ネットワーク、特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワークなど)が実施しています。研修は、講義中心の座学研修と演習やケーススタディを中心とした実技研修で構成される6日間程度のもので、ジョブコーチの役割、作業の方法、障害特性と職業上の課題、支援計画に関する理解、ケーススタディ、職場実習などを学びます。研修対象者は、障害者の雇用管理等の業務担当者です。独立行政法人高齢・障害・求職雇用支援機構の研修は無料で、民間の養成研修機関の研修は有料(特定非営利活動法人ジョブコーチ・ネットワーク:55,000円、特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワーク:54,000円)ですが、一定の要件を満たせば障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)により受講費の半額補助を受けられます。

 

Q13 地域の支援機関のサポートで利用できるものはあるか。

A:障害者雇用を進める場合、地域における労働系の就労支援機関として都道府県単位で設置されている障害者職業センター、都道府県内の圏域単位で設置されている障害者就業・生活支援センター、地方公共団体が独自に設置している就労支援センターなどによるサポートが無料で利用できます。

 障害者職業センターでは、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助などを行っています。事業主に対する支援としては、障害者雇用戦略立案への助言、障害者の担う職務の切り出し、社内研修の企画実施、合理的配慮提供の助言のほか、ジョブコーチの派遣を実施しています。障害者就業・生活支援センターは、障害者の職業生活における自立を図るため、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関との連携の下、障害者の身近な地域において職場実習や定着支援といった就業支援と生活支援との一体的な支援を行っています。地方公共団体が独自に設置している就労支援センターは、障害者就業・生活支援センターとの連携のもとに、職場実習や定着支援を行っていますが、まだ設置している地方公共団体は少ないので、地域の状況について障害者就業・生活支援センター等に確認すると良いでしょう。

地域における就労支援の福祉系の支援機関(就労移行支援事業所、就労継続支援事業所(A型・B型))では、当該施設の利用者で就職した者について「就労定着支援」を行っているところもあります。「就労定着支援」は障害者自立支援給付の一種で、「就労定着支援」を実施していない事業所もあることに加え、利用に伴う障害者自身の一部負担もあるため、採用する者が福祉系の支援機関に所属していた場合には、「就労定着支援」が受けられるかどうか確認する必要があります。

 

Q14 連携先の就労移行支援事業所を見分ける方法はあるか。

 

A:障害者の就労支援機関には、都道府県単位で設置されている障害者職業センター、圏域単位で設置されている障害者就業・生活支援センター、都道府県等の単独事業により市区町村単位で設置されている障害者就労支援センター等のほか、福祉事業として運営されている就労移行支援事業所や就労継続支援事業所(A型・B型)、教育機関である特別支援学校、デイケアを行う医療機関など、様々な機関があります。

これらの機関の役割や力量は様々で、どこに相談すれば良いか迷われることも多いと思います。特に福祉事業である就労移行支援事業所は数も多く、信頼できる施設を選ばないと後々苦労することになります。地域にある支援機関の全体状況について知りたい場合は、広域的なエリアを管轄区域としている障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターに確認すると良いでしょう。

福祉事業所である就労移行支援事業所の力量を評価するには、支援体制と支援実績に注目すると良いでしょう。支援体制としては、就職した者に対して3年間定着支援サービスを提供する就労定着支援事業の実施の有無がポイントとなるほか、就労支援担当者がジョブコーチ研修を受講していることも参考になります。また、支援実績については、当該事業所の支援を受けて一般事業所に雇用された利用者数や当該事業所による定着支援を受けている利用者数が参考になります。一般事業所に雇用された利用者が極めて少ない就労移行支援事業所は、連携先として適当ではないでしょう。

 

【採用前・採用時】

 

Q15 障害特性を採用前に確認するのに活用できる資料はないか。

 

A:厚生労働省が作成を勧めている「就労パスポート」は、障害のある者が働く上での自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などを支援機関とともに整理し、就職や職場定着に向け、職場や支援機関と必要な支援について話し合うために活用できる情報ツールです。就労パスポートの作成と活用の主体は障害者自身ですが、自分の特徴を様々な角度から客観的に整理するためには、支援機関のサポートを受けて作成するのが望ましいとされています。

就労パスポートと同様な趣旨で作成されるものに、「ナビゲーションブック」があります。主に発達障害者を対象にして、障害者職業センターの支援プログラムの過程で作成されるもので、本人の自己理解を深めながら作成される点に特徴があります。

採用募集にあたり、こうした書類を採用選考時の必須提出書類とすることは適当でありませんが、本人が自ら就労パスポートやナビゲーションブックを持参して、面接の際に活用することは本来の目的と言えます。

こうした書類の有無に関わらず、本人が同意する場合には、障害者の就労支援に関わる機関から、障害の特性や普段の状況等について必要な情報を得ることもできます。採用面接にあたり、支援機関の担当者の同席を義務付けることはできませんが、本人の希望により支援機関の担当者の同席を認めることは可能とされています。

 

Q16 採用前に実地で障害特性や働きぶりを確認する方法はないか。

 

A:採用前に職場で実際の作業をしてもらい、障害の特性や仕事との適性を実地に確認できるものとしては、職場実習があります。職場実習に参加する障害者の側には、仕事や職場が自分に合うか事前に確認できるメリットがあります。一方、実習を受け入れる職場の側には、採用される可能性のある障害者に対する理解を深め、雇用する際の課題や対応策を事前に確認できるメリットがあります。職場実習で事前に確認できれば、職場に受け入れることへの抵抗感や不安感も和らぐことが期待されます。

職場実習には、ハローワークが斡旋するもの、就労支援機関が実施するもの、就労移行支援事業所等が実施するもの、特別支援学校が実施するものなど様々なものがあります。実習期間についても、半日や2〜3日程度から2週間程度まで様々で、事業所側の都合や希望を踏まえて設定されます。職場実習と採用手続のタイミングについては、「先行実習による確認」と「採用過程での確認」の2つの方法があります。

「先行実習による確認」とは、職場実習(職場体験を含む)でマッチングが確認できた者について、採用手続に移行する方法です。この方法では、職場実習は採用手続の一環ではありませんが、職場実習で適性が確認された者について、本人の希望を踏まえて採用手続に進めることは可能です。就労支援機関や特別支援学校等から個別に持ち込まれるもののほか、採用意向のある事業所の側で参加者を募集して行うものがあります。

「採用過程での確認」は、職員採用を公募し、応募者に対して書類審査や面接に加えて、実地作業(実技試験や実地選考)による総合的な評価を行い、採用者を決定する方法です。実地作業は実際の業務による場合もありますが、模擬作業で行われる場合もあります。採用された場合に従事する業務への適性を確認するためのものであり、選考手続の中で実習を行うことを募集要項等で明示するため、改めて各個人に実習の了解をとる必要はありません。

 

Q17 現場には職場実習を受け入れるだけの余裕がない。

 

A:採用段階で手間を省こうとしたため、後になって何倍も苦労を強いられている困惑しているような実態は、医療機関の雇用現場にも多く見られます。医療機関ではこれまで職場実習の経験がほとんどないため、職場実習のことを念頭に置いていない職場も多いと思います。しかしながら、2〜3日程度の職場実習でも確認できることは多く、外部の支援機関が主体となって行うものも多いので、もっと積極的に考えるべきでしょう。

 

Q18 職場実習を行う場合に広い範囲から人材を集める方法はあるか。

 

A:障害者雇用で採用を行う場合、採用前に障害特性を把握したり、業務や仕事への適性を確認するマッチングが大切ですが、その方法としては職場実習がお勧めです。職場実習の仕組みとしては、ハローワークが行うもののほか、特別支援学校の行う現場実習(インターンシップ)、障害者就業・生活支援センターや地域の就業支援機関の行う職場実習、福祉系の施設の行う実習などがあります。

 特別支援学校の在学生の場合は、学校の教育プログラムの一環で現場実習(インターンシップ)が行われていて、学校の進路担当教員が実習先を開拓していますが、事業所の側から実習を受け入れたい旨の希望を学校側に伝えることもできます。地域にある学校に相談すれば、他の特別支援学校にも広く声かけをしてもらうことができます。なお、東京都の場合には教育庁特別支援教育推進室に実習受入れの専用窓口(shurou@shugaku.metro.tokyo.jp、電話03-5228-3425)が設けられ、実習受け入れの希望を伝えると「企業情報提供シート」に実習時期、時間帯、日数、受入れ人数、求められるスキルなどの希望を記載し、都内の全校に提供してくれます。

 既卒者で就労支援機関等に登録している者の場合は、地域の障害者就業・生活支援センターやハローワークに対して職場実習を経て採用したい旨を相談すると、地域の就労支援機関に広く情報を提供してくれることがあります。いわば「実習生の募集」で、応募者の中から実習対象者を選定することができます。

 このように特定の学校や就労支援機関に限定せず、広い範囲から職場実習の対象者を選考することもできますので、地域の特別支援学校やハローワーク、障害者就業・生活支援センターに相談すると良いでしょう。

 

Q19 医療機関では患者の個人情報を取り扱っているが、実習生に守秘義務は課せられるのか。

 

A:医療機関は患者の個人情報を取り扱っていることを理由に、職場実習生や学校・就労支援機関の担当者を外部から受け入れることに懸念されることもあるかもしれません。しかしながら、現実には障害者雇用の現場でこうした事態が問題となった話は聞きませんし、就労支援機関等との確認書の締結や実習者本人、支援者との秘密保持に関する誓約書を交わしておけば、制度的には担保できることでしょう。

 もっとも、実習期間中は必ずしも個人情報を取り扱う仕事に従事させる必要はなく、採用後に従事してもらう仕事をイメージして、ワードやエクセルの文書の入力やコピー用紙の補充など個人情報を取り扱わない作業や個人情報の記載のないサンプルを使って作業してもらうことも考えられます。

 一方で、職場で知り得たことを安易に外部で話さないようにすることは、採用後には重要な要素なので、こうしたルールが守れる人材を実習生として送り出してもらうよう、学校や就労支援機関に求めることが必要です。また、実習生に対しても、実習や採用の際の説明時に職場のルールとしてしっかり伝えておくことが必要です。

 

Q20 職場実習を行う際に傷害保険等に加入する必要はあるか。

 

A:職場実習を行う障害者は実習生の位置付けであり、事業主との間に雇用関係はないため、賃金は支給されませんが、実習中の事故に備えて傷害保険や損害保険に加入しておく必要があります。就労支援機関や特別支援学校の訓練・教育の一環として職場実習が行われる場合は、当該機関の側で保険に加入しているので、医療機関の側で加入する必要はないことが多いでしょう。これに対して、就労支援機関のサポートを受けていない者に職場実習を行う場合は、こうした地方公共団体の助成制度の有無を含め、ハローワークの専門援助部門に相談してみると良いでしょう。

 

Q21 採用面接で障害の状況を具体的に聞くことは差別にならないか。

 

A:障害者枠で採用する際には、仕事に影響する障害特性について把握しておく必要があります。障害の状況を聞く目的は、採用後にどのような配慮が必要かを検討するためです。障害の特性を踏まえた「合理的配慮」が提供されないと、能力が十分発揮できず、結果的に職場での評価が低くなることがあります。このことは障害のある本人と職場の双方にとって損失となります。能力を発揮できるための配慮について検討するという趣旨を伝えた上で、採用面接では仕事に影響を与える障害の特性をきちんと聞く必要があります。

 

Q22 選考過程に実地選考を組み込む場合、どのような点を評価すれば良いか。

 

A:将来的な採用の可能性を念頭に置いて職場実習を行う場合は、単に業務を体験させるだけでなく、職場に受け入れられるかどうかの評価も必要となります。一般的な職場実習では、挨拶、礼儀、態度、意欲、体力、責任感、集中力、正確さ、応用力等の評価項目を設け、何段階かで評価することが行われています。さらに、選考過程での実地選考では、報告・連絡・相談、安定した出勤等の評価項目が加えられる場合が多いです。

実地選考では、こうした個別項目の評価に加え、障害の特性と合理的配慮の確認も行う必要があります。本人が自分の特性や必要な配慮についてどれだけ理解しているかも大切です。面接の際に確認した障害の特性と合理的配慮の内容について、実地選考の際に確認しておけば、採用後の職場での合理的配慮の対応も円滑に行うことができるでしょう。

 

Q23 障害の情報を職場内でどこまで共有して良いのか。

 

A:採用した障害者に関して、本人や就労支援機関等から得られた情報について、どこまでをどの範囲の職員に伝えるかは、現場でも悩まれるようです。判断のポイントは、「障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な措置」(合理的配慮)を行う上で必要な情報かどうかということです。少なくとも、障害のある職員に対して業務の指示をする上司には、業務の円滑な実施に関係する事項は知らせておく必要があります。また、配慮を行うことで周りから不満が出ないよう、周囲の職員にも一定の情報共有をしておくことが必要な場合もあります。

いずれにしても、障害者の個人情報を他の職員に提供することについては、本人の了解を得ておく必要があります。障害特性のどの部分をどの範囲の職員に理解してもらうか、本人と十分に話し合い、本人の同意が得られる範囲で情報を共有します。情報共有について本人が消極的に考えている場合は、障害の特性を理解してもらうことで必要な配慮が求めやすくなることを丁寧に説明し、理解を促す必要があります。本人の理解力が十分でない場合は、支援機関の担当者等に同席してもらい、支援機関の側からも分かりやすく説明してもらうと良いでしょう。

 

Q24 障害者に就労支援機関への登録をしてもらうことは可能か。

 

A:採用対象を就労支援機関への登録者に限定したり、採用内定後に就労支援機関への登録を義務付けることは不適切と思われます。一方で、就労支援機関の提供する職場定着支援のサービスを受けることは、障害者自身にとってメリットがあり、職場の側にもメリットがあります。このため、採用が内定した者で就労支援機関に未登録の者に対しては、就労支援機関のサービスを受けることのメリットを説明した上で、できるだけ登録してもらうようお願いすることは可能でしょう。特に、生活面に課題があり、職場定着に不安があるような者については、就労支援機関への登録を働きかけることが望ましいでしょう。

 

 

【採用後】

 

Q25 採用後の配属先の拒否感や抵抗感をなくすにはどうしたら良いか。

 

A:採用された障害者の配属先がなかなか決まらないことがあります。障害者雇用の経験がない職場では、障害者とともに働くイメージが持てず、面倒なことを押し付けられたくないとの思いから、受入れに対する賛同が得にくい場合があります。

未知のことに対して不安を感じるのは無理もないことなので、障害についての基礎的な知識を得る機会を作る必要があります。障害者である職員を職場で受け入れるに当たり、配属される前後などのタイミングで、職場の同僚・上司を対象として、障害についての基礎知識や、必要な配慮などを学ぶための研修などを実施することは重要です。そのような機会には、障害のある職員が戦力となって活躍している職場の事例を映像で紹介したり、働いている本人や職場の担当者のメッセージを伝えると、具体的なイメージが持てて効果的です。

より早い段階から職場の不安を解消するには、アンケート等を通じて障害のあるスタッフに従事してもらいたい業務の選定を進めるなど、企画段階から現場の職員に関わってもらうと効果的です。その上で、当該業務を対象に職場実習を行い、現場の職員の目で適性を確認できた者を雇用するようにすれば、現場の職員も安心できるでしょう。

 

Q26 採用した者の職場適応に問題がある場合にどこに相談できるか。

 

A:障害の特性や配慮が必要な事項については、原則的には本人から説明してもらうのが望ましいと言えます。特別支援学校や障害者の就労支援機関等では、教育や訓練を通して自己認知を高める取り組みをしていますが、支援機関のサポートを受けていない者の場合は、自己理解が十分でなく、本人からの説明を聞くだけでは適切に対応できないことがあります。

就労支援機関等を利用せずハローワークの紹介で就職した者については、職場定着に懸念がある場合、ハローワーク等に配置された専門の支援者が業務遂行力やコミュニケーション能力の向上を図るなどの定着支援をフォローアップとして行うので、相談してみると良いでしょう。

 

Q27 既存の仕事で能力を発揮できない者のために新たな業務を切り出す方法はあるか。

 

A:障害のある職員にどのような仕事を割り当てるかにより、仕事の生産性は大きく影響を受けます。障害者枠で採用される職員の中には、他の職員の仕事をそのままでは引き継ぐことが難しい者も多く、業務の内容や範囲を変更する必要が生じることが少なくありません。このような場合には、仕事の量や種類を見直すほか、作業工程の一部を切り出し、複数の職員から同様の業務を抽出して再編する「業務の切り出し」が効果的なことがあります。

こうした業務の切り出しについては、各部署に対してアンケートを実施し、職員の多くが本来業務とは別に実施している定型的な業務を集めて新たな業務として再構築すれば、職員の負担軽減にもなり、「働き方改革」にも資することになります。どのような業務を切り出せるか、どのように再編すれば良いかなどは、その職員をサポートする就労支援機関がある場合は、当該支援機関に職場を見てもらった上で、具体的にアドバイスしてもらうことが可能です。支援機関がいない職員の場合には、ハローワークに相談してみると良いでしょう。

留意いただきたいのは、採用後に業務を切り出すよりも、予め仕事を切り出してから仕事に合う人材を募集する方が、格段効果的ということです。再編特定された業務の内容を明示した上で採用募集を行い、職場実習を通じて適性を確認すれば、後になってから苦労することも減るでしょう。

 

Q28 障害者雇用でテレワークを行う場合の注意点は何か。

 

A:身体障害のために通勤が困難であったり、精神障害のために人混みの中を通勤するのが苦手な者にとっては、自宅でも働けるテレワークは働く機会を広げるものでしょう。テレワークは働く場所を柔軟に選択できるため、障害のある職員も含め勤務に制約を抱える職員が自分の能力を発揮できる働き方の一つと考えられますが、対人サービスを基本とする医療機関においては、テレワークが可能なのは一部の事務部門に限られると考えられます。最も、最近ではオンラインによる画像診断なども可能になってきているので、今後は診療分野でもテレワークの範囲が広がる可能性があります。

 テレワークにおいても、職場の管理者はテレワーク勤務者に対して、勤務開始時・勤務終了時の連絡や業務内容の報告・相談を求めるなど、職場勤務の場合と同等の管理を行う必要があります。しかしながら、出勤して働くことを前提としている職場でテレワークを行う場合には、色々と注意すべき点もあります。管理者や人事担当者は、障害のある職員が、心身ともに健康に自らの能力を存分に発揮しながら就労を継続できるよう、職員とこまめにコミュニケーションをとり、職員の状況に十分配慮を行いながら、テレワーク勤務を働き方の一つとして活用していくことが重要です。

 テレワークにより自宅で一人で働く場合、どうしても職場にいる他の職員とのコミュニケーションが少なくなり、孤独になってしまうことがあります。このため、定例ミーティングにオンラインで参加してもらうなど、職場の一員であることを実感できるような配慮も必要でしょう。

 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が作成した「在宅勤務障害者雇用管理マニュアル」(平成18年3月改訂)があるので、テレワークでの雇用管理上の注意点などの参考になるかと思います。

 

Q29 自分の本来業務に加えて障害のある職員のサポートまで手が回らない。

 

A:障害のある職員が安定して適切に業務を実施できている場合は、周囲のサポートもあまり必要ないと思われますが、このような場合でも、業務を覚えて慣れるまでの期間は、頻繁で細かなサポートを必要とすることがあります。また、仕事の内容が変わったり、周囲の環境が変わったりした場合にも、改めて頻繁なサポートが必要となる場合があります。

こうしたことを通常の業務の合間に行うことは、かなり負担が大きいと言えます。物理的なバリアフリー環境さえ整えれば適切に仕事ができる者は、障害者枠で採用される職員の一部に過ぎません。精神障害や発達障害といった目に見えない障害の場合は、ハード面よりもソフト面の対策が必要なため、現場の職員が片手間にサポートする体制だと無理が生じる可能性があります。現場の負担を軽減するには、専任の担当者を総務部門等に配置して、各職場を巡回して障害のある職員と上司等の双方からヒアリングを行い、必要なサポートを行う体制を作る必要があります。手厚いサポートが必要な職員が複数いる職場では、専任の支援者を配置した上で特定の部門に集中して職員を配置する体制も考えられます。

 

Q30 現場で生じている問題が障害に起因するものである場合は、本来は必要な注意でも障害に配慮して控えるべきか。

 

A:障害のある職員の働きぶりについて、何らかの改善が必要だと考える場合、それが障害に起因するものであれば、職場の側には「合理的配慮」が求められます。「合理的配慮」は、障害のある職員が能力を発揮できる方策について、障害のある職員と職場の側で一緒に考えるべきものであって、遠慮して指導せずに能力が発揮できない状況を放置して良いものではありません。

大事なことは、障害のある職員と職場の側の双方が工夫するということです。この趣旨は法律にも明記されています。障害者雇用促進法第4条では、障害のある労働者に対して、「職業に従事する者としての自覚を持ち、その能力の開発及び向上を図り、有意な職業人として自立するように努めなければならない」と規定しています。その上で、第5条では事業主の責務として、「社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない」としています。

現に生じている問題について、障害特性を踏まえてどのような「合理的配慮」があると効果的かについては、その職員の採用や職場定着に関わっている支援機関や主治医がいる場合は、それらの意見を聞くことも有効でしょう。

 

Q31 障害を理由に休暇・欠勤を重ねたり,事務負担を軽くするよう相当な範囲を超えた申出に対して、どのように対応すれば良いのか。

 

A:障害のある職員から求められれば、何でも配慮しなければならないというものではありません。福祉ではなく雇用である以上は、ノーワーク・ノーペイの原則があるので、休暇や欠勤があまりに多いようなら、そのことの問題点をきちんと理解させる必要があります。

「合理的配慮」を巡るトラブルを防ぐためには、以下のことに留意すると良いでしょう。

・採用段階で合理的配慮の必要性と内容について話し合い、しっかり確認しておくこと。

・採用する際には、合理的配慮の内容についてルール(限度など)を決めておくこと。その際、必要に応じ主治医や産業医の意見も参考にすること。

・合理的配慮については、勤務開始直後には手厚い配慮が必要だとしても、期間の経過に伴い配慮の必要度が低下するものもあるので、中長期的視点で計画する必要があること。

・ノーワークノーペイの原則に照らし、配慮の限度がどこまでかを明確にしておくこと。

・勤務開始後は、配慮の内容と実態との関係を記録し、必要に応じて再度話し合って内容を確認すること。

・配慮の範囲を超えてしまう場合は、配慮の限度内に収めるよう工夫や努力し、それでも難しい場合は、病休や退職の勧奨もあり得ること。

 

Q32 仕事以外のサポートまで行う必要はあるのか。

 

A:障害のある職員を採用する事業主には、過重な負担とならない範囲での「合理的配慮」の提供が義務付けられています。こうした合理的配慮が必要な範囲は、障害のある職員の業務との関係で決まるものであって、仕事以外の部分のサポートは原則として合理的配慮の対象外となります。もっとも、職場内での移動や勤務中にも利用するトイレなどの施設については、業務そのものではないものの、合理的配慮の対象になると解されます。

 

Q33 勤怠状況が安定しない原因が家庭問題である場合、職場としてどの程度関与したらよいのか。

 

A:障害のある職員の面談等から、職場で生じている遅刻、欠勤、作業効率の低下などの問題の背景に家庭の問題があることが分かる場合があります。家庭に関する問題に職場が介入するのは適当でありませんが、家庭の問題が原因でも結果的に仕事に支障が生じているなら、その改善が必要なことは伝える必要があります。その改善については、採用前に支援を受けていた機関や現に登録している生活面の支援を担う機関がある場合は、それらの支援機関に対応してもらうことも考えられます。その意味では、地域の支援機関との関係を継続しておくことは大切でしょう。

 

Q34 モチベーションが低下している者にどう対応したら良いのか。

 

A:採用された障害者が職場に定着するためには、モチベーションの問題はとても重要です。モチベーションが低いと相談されるケースで多いのは、障害特性と仕事とのマッチングができていない場合です。計算が苦手な者に経理の仕事をさせたり、コミュニケーションが苦手な者に窓口や電話対応をさせたり、感覚過敏な者を騒々しい職場に配置したり、短期記憶が苦手な者に口頭だけで指示したりすれば、本人が能力を発揮できず、仕事へのモチベーションが低下するのは無理もないことです。一方で、障害者雇用枠で採用された職員に一律に軽微な作業を割り当てたことで、やる気を失わせている事例も一部には見られます。精神障害や発達障害のある者の中には、高いスキルを有する者もいるため、そうしたスキルを活かす機会が与えられないことは、モチベーションの低下につながります。障害の特性を踏まえた仕事を割り当て、障害特性を踏まえた指示をすることで、個人の能力が十分発揮できて周囲からも評価されれば、仕事のモチベーションも高まるでしょう。

モチベーションには、障害のある職員の働きぶりに対して適切な評価が行われているかどうかも影響します。適切な評価を行った上で、非常勤職員の賃金単価を引き上げたり、常勤職員へのステップアップを認めるなど、頑張った者が処遇面でも報われるようにすることは、モチベーションを高める効果があります。

 

Q35 周囲から差別されているという訴えにどう対応すれば良いか。

 

A:これまで周囲から否定的な言われ方をしてきた経験があると、周囲の目に敏感になっていることがあります。指摘された状況が認められない場合でも、「思い過ごしではないか」と否定するのではなく、どういう場面で「周囲から差別されている」と感じるのか、面談で具体的に聞くことが大切です。本人がそう感じる理由に根拠があるのか本人と一緒に考える中で、周囲の対応で改善すべき点や本人の受け止め方の問題が把握できれば、それに応じた対応も検討できるでしょう。本人の受け止め方の問題については、外部の就労支援機関のサポートを受けている者の場合は、支援機関の側とも情報を共有して、支援機関からもアドバイスをしてもらうと効果的でしょう。

 

Q36 仕事が分からなくても聞きに来ない者にどう対応すれば良いのか。

 

A:仕事のミスを繰り返す背景には、仕事の内容が障害特性とミスマッチを生じていることも考えられます。作業工程を更に細分化したり、仕事の指示の方法を見直すことが必要かもしれません。口頭での指示だけだと十分理解できなくても、文書や図で示すと効果的な場合があります。仕事の正確さよりもスピードを優先している場合もあるので、最初はゆっくりで良いので正確に行うことが必要であるなど、何を基準に仕事が評価されるか適切に伝えておくことも大切です。

分からない時には「分からない」とはっきり伝えてもらえば良いのですが、コミュニケーションに障害のある者の場合、自分から伝えることが難しい場合があります。「分からない時は聞くように」と言われても、どの部分が分かっていないのか自分でも説明できなかったり、どのタイミングで聞けば良いのか分からなかったりして、聞きそびれてしまうこともあります。こうしたことを避けるには、指示内容が理解できているかどうか、復唱させるなどして確認する方法があります。また、1日の作業の中に定期的な面談時間を設けることで、相談するタイミングに悩まずに相談できる機会を作ることも効果的です。

以上のような配慮をしても、相談しないままにミスを繰り返す者に対しては、割り当てる業務を変更することも考える必要があるでしょう。

 

Q37 勤務が安定せず出社できない者にどう対応したら良いか。

 

A:ラッシュ時の通勤に困難がある場合や長時間勤務が難しい場合には、職場の制度の範囲内で、時差出勤や短時間勤務による対応をすることも考えられます。仕事の内容によっては、テレワークによる対応が可能なものもあるでしょう。

出社できないという背景には、職場のストレスが問題になっている可能性もあるので、職場の面談や就労支援機関の面談を通じて、何か問題となっていることがないか丁寧に確認し、可能な対策を検討する必要があります。

こうした点に配慮しても、疾病の症状により勤務することができず、それが一時的なものではなく継続する場合は、事業所に雇用されて賃金を得て働くのが難しい状態とも考えられます。このような場合には、就労支援機関やハローワークとも相談して、いったん離職して状態が改善するのを待ってから、改めて就労支援機関等により一般事業所で働くための支援を受けることを勧めてもらうことも考えられます。本人のための「ハッピーリタイアメント」の支援も、支援機関に期待される大切な役割の一つです。

 

Q38 予想以上に働いて評価も高かった者が突然調子を崩したが、どのような原因が考えられるか。

 

A:障害の特性と仕事とのマッチングが上手くいけば、高い評価を受けることもありますが、頑張りすぎて調子を崩してしまうこともあるので、注意が必要です。

当初割り当てられた仕事が想定以上にできると、こんな仕事もできるのではないかと、仕事の量が増えたり、仕事のレベルが上がったりすることがあります。それに対して、本人も積極的に応えて成果を出していき、周りからの評価も高まり、上手く進んでいると安心していた矢先に、突然調子を崩してしまうことがあります。このような場合では、周囲からの期待に応えようとして、周りが想像する以上の努力をして、疲れ切ってしまったことが原因となっていることがあります。そこまでの状況にあることに気付いてあげられず、どうしようもない状況になってから顕在化することになります。こうならないためには、上手くいっていると思われる時期にも、見守りとともに定期的な面談を行い、無理が生じていないか常に把握しておくことが必要です。

 

Q39 面談で不調の要因を把握したいが、面談自体が負担になると言われて対応できない。

 

A:障害の特性を踏まえた合理的配慮をしていくには、定期的な面談を通じて、何か問題が生じていないか早めに把握することが必要ですが、発達障害のある人の中には、面談での口頭のやりとりが想像以上に負担になる人もいます。口頭のコミュニケーションが苦手な者でも、文書でのやりとりは比較的うまくできる場合もあります。口頭での面談という形にこだわらず、毎日の状況を日誌に記載して提出してもらうことで、口頭でのやりとりでは気づかない気持ちを知ることもできます。精神障害者や発達障害者などでは、その日の気分のような主観的なことも日誌に記載してもらうと、調子を崩す予兆も把握しやすくなり、早めに対策を講じることができます。

紙ベースの日報を発展させたものとして、WEBを活用した日報システムSPIS(エスピス)も実用化されています。こうした先進的な取り組みを活用することにより、現場の負担感を軽減していくことも検討してみると良いでしょう。

 

Q40  仕事が簡単過ぎると言われたが、難易度の高い仕事ができるとも思われない。

 

A:障害のある職員に担当させる業務として、定型的な軽作業等の単純業務が割り振られる場合があります。知的障害者や精神障害者の中には、定型的な単純業務を望む者も多いですが、逆にこうした業務だとモチベーションが下がってしまう者もいます。障害の種類が同じでも、個人ごとに特性は異なるので、一律的に考えることは適当ではなく、それぞれの障害特性や希望も踏まえて担当業務を検討する必要があります。一旦定めた担当業務についても、実際の仕事ぶりを見ながら適宜見直しをしていくことが必要です。

一方で、本人がより難易度の高い業務を希望しても、ミスが多い、必要なスキルが伴わない等の理由から、任せることが難しい場合があります。自己理解が乏しいために実力に見合わない業務にこだわる者に対しては、業務を行う上での必要条件を明確に示した上で、試験的に業務の一部を行わせてみて、どの程度できるかを本人と一緒に確認し、現状での課題を共有すると良いでしょう。本人が正しく自己理解できない場合は、就労支援機関等の協力を得ることも効果的です。

 

Q41 もっぱら身体を使う作業に従事することを条件に雇用された者が、自分には企画関係の業務の方が向いているので異動させてほしいと言っているが、どうしたら良いか。

 

A:雇用する際に担当業務を説明し、その業務を行うことを了解した上で採用されている以上は、本人が希望したからといって担当業務を変える必要はないと言えます。一方で、希望する職場に本人の能力を発揮できそうな業務があり、本人のスキルから見て現在の担当業務よりも高いパフォーマンスが期待できそうな場合もあるかと思います。そのような場合には、人材を補充する意向があるか先方の職場に確認した上で、一定期間に限り試行的に業務に従事させてみて、業務に必要なスキルがあると先方が判断できたならば、異動させることもあり得るでしょう。そのような業務が先方になく、かりにあったとしてもスキル的に無理な場合は、担当してもらえる業務がないことを伝えれば足り、新たな業務まで作り出す必要は必ずしもないでしょう。

 

Q42 コミュニケーションの仕方がストレートで周囲から敬遠されている者に対し、どのように指導したら良いか。

 

A:障害のある職員の職場内でのコミュニケーションの仕方について、周囲の職員が違和感を感じることがあります。多少の違和感があっても、仕事そのものに影響がなければ、時間の経過とともに周囲が慣れることで問題が解決することもあります。しかしながら、本人の言動により職場の生産性が落ちるような場合は、職場の秩序として一定のコミュニケーションルールを示す必要があります。この場合、どのような表現が周囲の職員に嫌な思いをさせるか、できるだけ具体的に伝える必要があります。使うことが適当でない言葉や表現については、その理由を含めて説明するとともに、そのことを文書化していつでも自分で再確認できるようにしておくと良いでしょう。その上で、定期的な面談の機会を通じて、周囲のコメントも含めて振り返りを行うと効果的でしょう。

 

Q43 患者の誘導等患者に接するような業務を行う際に、注意すべきことはあるか。

 

A:知的障害や発達障害のある者にとっては、患者さんの質問に的確に答えたり、臨機応変に対応することが苦手なことがあります。障害者雇用の実績のある病院では、患者さんから案内や誘導を請われた場合は、近くにいる病院職員につなぐことをルール化し、職員にも周知することで問題なく対応できるようにしています。精神障害のある者が患者さんの受付業務に従事している病院もあります。マニュアルに沿った定型的な対応であれば、問題なく行えることも多いようです。対人業務ができないと決め付けるのではなく、マニュアルにない対応が求められる場合は近くの職員に相談できるなど、周囲のサポートが可能な体制であれば、本人の希望を確認した上でチャレンジしても良いでしょう。

 

Q44 外見からは把握するのが難しい精神障害者の心身の状況について、効果的に把握する方法はないか。

 

 A:外見からは問題がなさそうに働けている者でも、面談でよく話を聞いてみると、思わぬ問題を抱えていることが分かることがあります。その意味では定期的な面談の機会を作り、本人の気持ちを含めた状況を確認する必要があります。

また、口頭で聞いても問題ないという答えが返ってくる場合でも、文書だと不調の兆しとなるような内容が出てくることがあります。そのため、安定して働くために無理のない範囲で、毎日の気持ちの状態を含めた「日報」を書いてもらうことも効果的です。こうした日報の一つとして、web上で日報を記載して、それを外部の専門家も含めて閲覧し、コメントするweb日報システム(SPIS)が活用されている事例もあります。

 

Q45 就労定着支援システムSPIS(エスピス)とは何か。

 

A:精神障害のある職員の雇用では、突然調子を崩すなど不安定さが問題となる場合があります。こうした課題に対応する方法として、一部の公的機関では「就労定着支援システムSPIS(エスピス)」が活用されています。厚生労働省が取りまとめている「国の機関の障害者雇用の事例集」では内閣官房、「地方公共団体の障害者雇用事例集」では埼玉県庁と金沢市でSPISを活用している事例が紹介されています。

 SPISは、障害者が記載する日報を職場の担当者と外部の専門家がWeb上で共有するもので、実際に活用している職場では「障害者が直接担当者に言いにくかった業務に対する不安や要望も伝えられるようになった」「体調管理ができるようになった」「担当者が外部の専門家から障害者への対応方法を学べた」といった効果が指摘されています。

 SPISでは、日報の記載を通じてセルフチェックと自己開示が行われます。セルフチェックの特徴は、自分自身の心身を安定させる上で重要な項目、逆に言えば体調不調になる予兆をつかむための項目を自分で設定し、それを4段階の評価項目でチェックします。また、意見・感想欄には、その日に感じたことや気分、伝えておきたいことなどを記載します。その意味では、「仕事」の日報というよりは「気持ち」の日報という面があり、これに対して担当者がコメントをしていく中で信頼関係ができて、就労も安定していきます。

 SPISでは日々の評価をグラフ化できるため、体調が不調になる時期やその前後の状況を分析することで、本人自身も周りも変化のきっかけに気付けるようになります。毎日のコメントもテキストデータとして記録されるので、グラフと照らし合わせて何が原因か分析し、原因が分かると対策も講じやすくなります。

 障害のある職員と職場の担当者、外部の専門支援者の三者がWebを通じて情報を共有することで、リアルタイムな状況把握とタイムリーな支援が可能なことから、問題の兆しが現れた時点で早めに介入することで、最小限の労力で対応することができます。

SPISの利用は有償ですが、30日間無料でトライアルすることもできます。詳しい内容については、特定非営利活動法人全国精神保健職親会等の運営する「就労定着支援システムSPIS」(https://www.spis.jp)の紹介サイトをご覧ください。

 

Q46 障害のある職員が受診している医療機関と連携するにはどうすれば良いか

 

A:障害の原因となる疾病の治療が継続している者の場合、勤務状態が疾病の症状に影響したり、逆に疾病の状態が勤務に影響したりすることがあります。精神障害者の場合には、服薬中で通院を継続している者も多く、働くことが症状に影響することもあるため、特に主治医との連携が必要とされています。

事業主は職員に対する安全配慮義務を負っているため、安全配慮のために必要な情報を得る必要があります。病気や怪我などで業務制限が必要な者については、本人から提出される主治医の意見書を踏まえて、業務内容が検討されますが、本人の了解が得られる場合には、医療機関の受診に同行して主治医から直接話を聞くことも可能です。このほか、主治医に情報提供を依頼する文書を本人から主治医に提出してもらう方法もあります。その際には、医療機関の定める意見書作成料を負担することになります。

 

Q47 一緒に働く障害者同士の関係が悪い場合は、どのように対応すればよいか。

 

A:採用された障害者が作業を行う際に、作業内容によっては2人1組で作業することもあると思います。2人の相性が良い場合は、作業もはかどり職場にも定着しやすい面がありますが、仕事以外のおしゃべりが多く作業が進まなくなったり、職場環境に悪影響が生じるような場合には、注意する必要があります。

 これに対して、一緒に働く障害者同士の関係が悪く、一方が他方に対して攻撃的な言動をしたり支配的に振る舞ったりする場合もあります。こうした問題が生じる背景には、個人の性格も関係はしますが、作業のスピードや正確性に差がある者が一緒に仕事をすることで、一方に不満が生じていることもあります。その意味では、単に生じている事象に目を向けるだけでなく、その背景に何があるかを探ることも必要でしょう。その上で、こうした関係の悪い状態が続き、指導しても改善されない場合には、組合せの解消も視野に入れる必要があるでしょう。

 障害者の配置について特定部門への集中配置をしている集約型オフィスでは、ペアの組合わせも柔軟に変えられるため、色々な組合わせを試した上で、作業効率が良いペアで働けるようにすることも可能でしょう。

 

Q48 支援担当者の異動時に不調になるのを防ぐ方法はあるか。

 

A:支援担当者の支援を受けている職員が、支援担当者の異動後に調子を崩してしまうことがあります。このタイミングで調子が悪くなる主たる原因は、職場の側にあると考えて良いでしょう。

安定的な支援を継続するには、前任の支援担当者から後任に適切な引き継ぎを行うことが必要です。適切な引き継ぎのためには、支援対象者の特性や配慮について、前任者がきちんと整理して情報を伝える必要があります。その際に参考としたいのが「就労パスポート」です。「就労パスポート」は、障害のある者が働く上での自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などを支援機関とともに整理し、職場や支援機関と必要な支援について話し合うために活用できる情報ツールです。就職段階で作成されるだけではなく、就職後にも職場の上司・同僚と内容を共有することで、本人や職場の側で活用することが期待されています。「就労パスポート」の作成・改訂には、就労支援機関も関わることが望ましいとされています。日頃から就労支援機関のサポートを受けながら、仕事や職場の状況も踏まえて「就労パスポート」を最新の状態にしておけば、支援担当者の異動時にも安心して情報を引き継ぐぎことができます。

こうした情報の引き継ぎと合わせて、後任者には速やかに障害者職業生活相談員資格認定講習や企業在籍型職場適応援助者養成研修等の研修を受講してもらい、支援スキルを身につけることが望まれます。こうしたことは、支援担当者異動に際してのルールにしておくと良いでしょう。