川﨑敏克 薬剤部長(国立がん研究センター東病院)

国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)では、知的障害や精神障害のあるスタッフ16名が病院内の業務に従事しています。同病院では、2011年に事務部管理課庶務係に属する組織として「オフィスオーク」を設置し、ジョブコーチの指導支援の下に障害のあるスタッフが働く環境を整備しました。オフィスオークでは、院内から受注する業務が増えるのに合わせて、年々働くスタッフの数も増やしてきました。2016年度以降は、薬剤部からも仕事を発注するようになり、今では薬剤部から様々な業務を発注するなど、オフィスオークは欠かせない存在となっているそうです。

薬剤部長の川﨑敏克さんに、薬剤部の目から見た病院の障害者雇用についてお聞きしました。

(インタビュー)

Q :薬剤部の仕事をオフィスオークに発注されたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

川﨑:オフィスオークが設置された2011年当時は、障害のあるスタッフの数も少なく、看護部から発注される仕事が中心でしたが、年々スタッフの数も増え、新たな業務を増やす必要が出てきたことから、薬剤部にも業務の発注の依頼がありました。薬剤部からは2016年度に注射薬カートの搬送をお願いしたのが、最初でした。

Q :注射薬カートの搬送を発注された理由は何だったのでしょうか。

川﨑:当院では、毎日大量の注射薬を病棟に払い出しています。翌日使用予定分の注射薬は専用の注射薬カートに入れ、午後の遅い時間に薬剤部から病棟に搬送しており、翌朝には前日分の使用済みカートを薬剤部に回収しています。注射薬カートの搬送は、以前は看護助手が行っていましたが、看護助手は患者を検査室に連れて行くなど色々と仕事があるため、薬剤部でやってもらえないかという話がありました。薬剤部も忙しいため、この仕事をオフィスオークにお願いできないかと考えました。病棟へ搬送する時間帯はオフィスオークの勤務時間外のため難しかったので、朝の時間帯に使用済みのカートを病棟から回収する作業をオフィスオークにお願いすることにしました。

Q :次に発注されたのは輸液の搬送・補充だそうですね。

川﨑:2018年度からは、薬剤部内での輸液の搬送・補充もお願いしています。薬剤部の倉庫から注射調剤室まで輸液を運び、払い出し用の棚に並べて置いてもらう作業で、毎日時間を決めて行ってもらっています。従来は、薬剤師と薬剤助手で行っていた作業ですが、量も多いので非常に助かっています。重量もありますが、皆さん苦にせずにやっていただいています。輸液の入っていた大量の段ボール箱の片付けも行ってもらっています。

Q :他にはどんな業務がありますか。

川﨑:2018年度からは、注射箋へのスタンプ押印や薬剤説明書を折り畳む仕事も発注しています。注射薬の払い出しの際には、運用上から手書き注射箋を使用する場合があり、定型の記載をスタンプ押印していく作業があります。従来は薬剤助手が行っていたもので、手書き処方箋は複写式のため毎日大量な枚数に位置も合わせて押印する単調な作業ですが、これをオフィスオークにお願いしたところ、とても丁寧に作業していただいています。

Q :薬剤説明書の折り畳みとは?

川﨑:内服薬のうち患者さんに渡す説明書が必要なものがあり、薬と一緒に薬袋に入れるようにしています。説明書は製薬メーカーから提供されますが、記載される情報によって様々な大きさのものがあり、そのままだと薬袋に入らないため、薬袋に入る程度の大きさに折り畳む必要があります。従来は薬剤助手が行っていた作業ですが、単純な作業でも大量に必要なため、結構時間が取られていました。急いで行う作業ではないため、オフィスオークに早めに渡しておくと、丁寧に折り畳まれたものが納品されてきます。

Q :薬剤部ではシュレッダーの作業はされていますか。

川﨑:薬剤部にもシュレッダー機はあり、以前はすべて自分たちでシュレッダーをかけていました。オフィスオークができて、事務部門や医療部門を含めた病院全体の書類のシュレッダーを行うようになりました。今では薬剤部内にもシュレッダーにかける書類を入れる箱が用意され、その中に入れておくとオフィスオークで回収し、シュレッダーにかけてくれます。

Q :2019年度からは返納注射薬の仕分け作業も発注されたようですが、どんな仕事でしょうか。

川﨑:注射薬はその日に使う分を毎日払出していますが、患者さんの状況により使われないこともあるため、返納されるものも多いです。全く使われずに返納されてきた注射薬は再利用します。返納される注射薬はバラバラにトレーや袋に入っているので、再利用できるようにするには、品目ごとに判別し、仕分けて配置棚へ戻す必要があります。この作業は元々薬剤師が行なっていたものですが、結構な量があるため、一次的な仕分けをオフィスオークのスタッフにしてもらい、それを薬剤師が確認した後に配置棚へ戻すようにしました。一次仕分けに要する時間を薬剤師は他の作業にあてることができるため、大変助かっています。

Q :同じ時期からレジメンチェックシートのピックアップも発注されているようですが、どんな作業なのでしょうか。

川﨑:抗がん薬の投与スケジュールを定めるレジメンには、休薬期間が定められていたり、検査値による減量基準が定められていたりすることから、医師からの毎回のレジメンオーダ内容を薬剤師もダブルチェックしています。当院では紙媒体のレジメンチェックシートを使用しており、患者ごとにファイルに入れ患者氏名の50音順に並べてあります。医師からレジメンオーダがあったら、当該患者のレジメンチェックシートをピックアップして、薬剤師のチェックにまわしています。このレジメンチェックシートのピックアップと、薬剤師のチェック終了後に50音順の並びに戻す作業を、オフィスオークに行ってもらっています。

Q :発注されている業務をお聞きすると、薬剤部で行っている業務の中から、定型的な業務を切り出されていることが分かりますが、こうした発注する業務の切り出しや選定は、どのようにされているのでしょうか。

川﨑:薬剤部の業務が増えてきた中で、これまで薬剤助手が行っていた作業を中心に、オフィスオークにお願いすることが可能なものか、薬剤助手が行った方が良いかを検討しながら振り分けをしています。オフィスオークのスタッフにも個人ごとに適性があり、任せられる仕事と任せにくい仕事があるようです。そこで、各自の適性を把握しているジョブコーチと相談しながら、最終的に発注するかどうかを決めるようにしているので、非常にやりやすいです。

Q :オフィスオークに発注された仕事の出来栄えは、いかがでしょうか。

川﨑:お願いしている仕事の出来栄えには大満足していて、非常に助かっています。ジョブコーチと相談しながら、発注できる仕事をしっかり選んでいるからだと思います。難しい仕事はジョブコーチが「難しい」と率直に言ってくれるので、安心できます。最初にオフィスオークに仕事をお願いするときは、失礼ながら正直申し上げて質的に多少は落ちることも覚悟していましたが、実際にはそんなことは全くありませんでした。作業スピードについても、元々ゆとりを持ってお願いしていることもあり、特に問題が生じることもありません。

Q :オフィスオークに発注することで、薬剤部としてはどのようなメリットがあったのでしょうか。

川﨑:特に計測はしていませんが、オフィスオークに作業をお願いしたことで、確実に薬剤師や薬剤助手の業務負担軽減につながっています。薬剤師の空いた労力や時間は、薬剤師としての職能を発揮する仕事に振り向けることができます。薬剤師の業務は、以前の「対物業務」中心から、最近は患者に直接対応する「対人業務」へのシフトが求められていて、我々もできるだけ「対人業務」に時間を割くようにしています。薬剤師が患者対応に関わることは、診療報酬でも評価されるようになってきていて、例えば、週20時間以上病棟に薬剤師が常駐し必要な業務を行えば「病棟薬剤業務実施加算」が算定できますし、外来において抗がん薬を投与された患者については、保険薬局との連携体制を整備することで「連携充実加算」が算定できます。一方で、医師からのタスク・シフト/シェアは薬剤師にも降りてくるので、そのままだと薬剤師の仕事が増えてしまいます。こうした状況の中でも薬剤師が「対人業務」にしっかり関わるためには、薬剤師でなくてもできる業務の薬剤師以外へのタスク・シフト/シェアが不可欠であり、その受け皿として薬剤助手のみならず、オフィスオークのようなところに担ってもらえると、とても助かります。こうした傾向は、今後はさらに強まるかと思います。

Q :オフィスオークに発注する仕事の種類は、今後拡大する予定はあるでしょうか。

川﨑:既に多岐にわたる業務をお願いしているので、新たに業務の種類を増やしていく予定はありませんが、例えば、現在行ってもらっている帳票類のファイリングは、他にも様々なものがあるので、ファイリング対象を拡大するようなことはお願いしたいと思います。

Q :最後になりますが、他の病院の薬剤部長さんに対して、障害者雇用についてのメッセージをお願いします。

川﨑:医師のタスク・シフト/シェアにより薬剤師が請け負う業務は間違いなく増えてくるので、薬剤師以外でもできる業務は他にお願いしたいというのは、どの病院の薬剤部長も同じ考えでしょうが、その引き受け先がなく苦労されていることと思います。オフィスオークという障害者雇用のチームがある当院では、障害のあるスタッフがジョブコーチの指導のもと予想以上にしっかり作業してくれるので、安心して仕事を任せています。障害者の法定雇用率も引き上げられ、病院として障害者雇用を進める必要性は今後ますます高まっていく中で、これから障害者雇用を本格的に進めようと考えている病院もあるでしょう。その際には、是非、薬剤部の中の薬剤師以外でもできる業務については、障害のあるスタッフへ任せることを検討してもらうと良いと思います。

Q :病院としても雇用率を満たすことができ、薬剤部としてもタスク・シフト/シェアの受け皿ができるため、双方にメリットがあるでしょうね。

川﨑:それに加えて、働く障害者の皆さんにとっての働き甲斐につながることもあると思います。ジョブコーチからお聞きしたのですが、オフィスオークのスタッフは薬剤部で働くことをとても嬉しく思っているそうです。医薬品を扱うために、病院で働いていることを実感できるからのようです。このように薬剤部で働くことを喜んでもらえるのは、薬剤部長としても嬉しい限りです。

Q :病院業務に貢献できていると感じることで、働くことのモチベーションも高まるでしょうね。

川﨑:オフィスオークのスタッフの中には、働きぶりが評価されて薬剤助手になり、オフィスオークの所属から薬剤部に所属が移った人もいます。雇用としては6時間の非常勤勤務ですが、処遇も向上することから、障害者雇用のステップアップのモデルケースとも思われます。個人の適性にもよりますが、障害者雇用のスタッフにはこうした人材もいることは、知っていただくと良いのではないでしょうか。

Q :本日は大変参考になるお話を有難うございました。

(聞き手:依田 2023年8月)