医療保険での対応

精神科の医療機関では、医療保険制度の下に入院や外来の診療が提供されています。ある程度病状が安定してくると、就労や復職等を目指してデイケアやナイトケア、デイナイトケア、ショートケアに移行することが多いですが、主治医のいる医療機関でデイケア等を実施していない場合は、主治医とは別の医療機関のデイケア等が利用されることもあります。

 

(1)デイケア等

精神科デイケアでは、明確に一般就労への移行を目的としたプログラム を組み入れているところは少ないですが、一部の医療機関ではデイケア内に模擬会社を設け、実際の職場に近い環境下で作業を行うなど、実際の職場を意識したプログラムを実施しています。また、就労支援機関等の見学、職場実習、ハローワークの集団面接会の見学などの施設外活動、履歴書の書き方や採用面接指導、企業面接への同行などを、デイケアの一環として行っているところもあります。就職した者に対する支援としては、勤務終了後のナイトケアや日曜日のデイケアが活用されています。

 

(2)リワーク(復職支援)

うつ病等で休職中の者が復職に向けて取り組む場合、医療機関の外来のほか、デイケアや短時間のショートケアが利用される場合が多く、大都市部を中心にリワークに特化した精神科クリニックも増えてきました。

 

(参考)就労支援の診療報酬による評価

精神疾患のある方に対する就労支援に積極的に取り組んでいる医療機関からは、企業に出向いて行う人事担当者や産業保健スタッフとの調整等の活動が診療報酬で評価されるようになれば、医療機関の就労支援も推進するという意見が出されています。医療機関の行動は診療報酬に大きく左右されるため、診療報酬で就労支援を評価することは、現実に効果が期待される提案でしょう。一方、医療保険は限られた財源の奪い合いの側面もあり、診療報酬で就労支援を評価する財源をどこから持ってくるかという問題もあります。医療と介護の関係と同様、就労支援の財源は医療保険とは別に求めるべきという意見は、医療関係者の中からも出てくることが予想されます。また、診療報酬で評価されれば、就労支援を行う医療機関は増えるでしょうが、医療の枠組みの中で行われる就労支援について、職業リハビリテーションの観点から質の確保が担保できるかという意見もあります。就労支援に積極的に取り組む医療機関の負担を軽減する具体的な仕組み作りにおいては、医療機関と労働機関との連携を深める視点も求められるでしょう。

このように医療機関が行う就労支援を診療報酬で直接的に評価することは、現状ではハードルが高いと思われますが、一方で、就労支援を行う関係機関に対する情報提供については、現行の診療報酬制度の下でも就労移行支援事業所や就労継続支援事業所に対するものは「診療情報提供料(Ⅰ)」を請求できるため、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、都道府県等の単独事業の就労支援機関にも対象を拡げることは十分可能性があるでしょう。更に進んで、精神科訪問看護・指導の訪問先が「患家」以外にも広がれば、就労支援機関への同行や職場実習に向けた調整等も診療報酬で評価されることになりますが、通院できない重度な患者が対象という訪問看護・指導の前提を見直す問題であるだけに、十分な議論が必要でしょう。