新着情報

我が国の障害者雇用率制度は、昭和51年10月にスタートしました。当初は、身体障害者のみを対象としており、「法定雇用率」の算定も「実雇用率」の評価も、身体障害者の数のみで計算していました。

その後、昭和63年4月からは、「実雇用率」の評価に際して、知的障害者を雇用した場合も身体障害者を雇用したものと見做してカウントできるようになりました。この扱いは、身体障害者のための雇用枠を知的障害者が使うことであるため、平成10年7月から「法定雇用率」の算定基礎の対象に知的障害者も加えることで、体系的な整理が図られました。これに伴い、「法定雇用率」は1.6%から1.8%に引き上げられました。

精神障害者についても同様の経緯を辿り、平成18年4月からは「実雇用率」の評価に際し、身体障害者又は知的障害者を雇用したものと見做してカウントできるようになりました。そして、平成30年4月からは、「法定雇用率」の算定基礎の対象に精神障害者も加える措置が講じられ、漸く三障害同一の扱いが実現することになりました。

(参考)法定雇用率の対象となる障害者の範囲の変遷

医療機関での障害者雇用の実際の状況について、積極的に見学を受け入れている病院があります。見学を希望される場合には、それぞれの担当の窓口にご連絡ください。

国立がん研究センター中央病院

(連絡先)

人事課:福田(03-3547-5201 内線2567)

 

奈良県立医科大学付属病院

(連絡先)

人事課 障害者雇用推進係:岡山(0744-22-3051内線2140又は PHS 070-6549-5894)

関西地方にある公的病院グループの病院では、従来、身体障害者中心に障害者を雇用してきましたが、定年年齢に達する者が続いたこともあり、病院として法定雇用率水準の維持が厳しくなってきました。このためハローワークに相談してきましたが、身体障害者で適当な方を見出すことができずにいました。そうした中で、地域にある公的な就労支援機関に相談した結果、新たに知的障害や精神障害のある方の雇用にチャレンジしてみることになりました。就労支援機関は、病院を訪問し、院内各部門の仕事から幾つかの具体的な業務を提案し、その業務に合う人材も捜してくれました。病院側も就労支援機関から学びながら、業務を分かりやすく示す作業の手順書を作成しました。こうして新たに障害のあるスタッフが複数雇用され、その後も手順書の改良等を重ねながら、安定した就労を実現することで、障害者の雇用数も増えていきました。他の病院からの見学も受け入れ、見学した病院での新たな雇用にもつながっています。「学ぶ側」が「伝える側」へと進化していく、これも障害者雇用の喜びの一つでしょう。

質の高い医療提供体制を構築するためには、勤務環境の改善を通じ、医療従事者が健康で安心して働くことができる環境整備を促進することが重要です。平成26年10月1日には医療機関の勤務環境改善に関する改正医療法の規定が施行され、各医療機関がPDCAサイクルを活用して計画的に勤務環境改善に取り組む仕組み(勤務環境改善マネジメントシステム)が導入されました。

(参考1)医療勤務環境改善の意義(リンク)

(参考2)勤務環境改善マネジメントシステムの概要(リンク)

各医療機関において、医師、看護職、薬剤師、事務職員等の幅広い医療スタッフの協力の下、一連の過程を定めて継続的に行う自主的な勤務環境改善活動が進められるよう、「勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き」も策定されています。手引きでは、医療従事者の勤務環境改善の例が示されていますが、特に「③働きやすさ確保のための環境整備に関する項目」の例示には、医療機関で障害者が従事している業務に関わるものが見られます。

(参考3)医療分野の「雇用の質」改善のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(リンク)

(参考4)働きやすさ確保のための環境整備に関する項目(例)

障害者雇用が進んでいる事業所では、障害のあるスタッフが従事する仕事を切り出す過程で、業務の見直し・再編が進み、全体として業務の効率化が進んだ事例が数多く報告されています。

医療機関は、医師・看護師・薬剤師等の国家資格を持った職員が中心の組織であるため、業務効率化の効果は他産業に比べても大きいと言えます。医療スタッフが毎日行う仕事の中には、国家資格を有する職員が行う必要のないものも含まれています。一例をあげれば、点滴チューブが患者の体から抜けないように固定する様々な形状のテープは、看護師等が業務の片手間に作成している場合が多いですが、こうした作業は障害のあるスタッフが得意とする作業の一つです。障害者雇用を始めることで、こうした作業から看護師等が解放されれば、患者対応など国家資格を活かす業務に専念でき、残業も減らせるでしょう。カルテや諸文書の整理などの事務系の仕事についても、障害者雇用により専門職の負担が解放されています。

また、ベッド枠や点滴台の清掃など、日頃は手の回らない業務を障害のあるスタッフが行うことで、医療スタッフが気持ちよく仕事ができるようになり、患者家族からも評価され、病院全体のイメージアップにもつながっています。

このほか、職員の休憩室や当直室の清掃による勤務環境の改善や、障害のあるスタッフが元気に挨拶することで職場の雰囲気が明るくなるなどの効果も指摘されています。

このように、障害者雇用を進めることによって、「医療従事者の勤務環境」が改善されていけば、看護師等の離職も減り、新たな人材確保もしやすくなります。看護師等の人材確保に苦労されている医療機関の皆さんには、先進事例が示す障害者雇用を契機とした業務効率化等を通じた「医療従事者の勤務環境の改善」は、是非、意識していただきたいものです。

(参考5)看護補助業務での職域開発

「国家資格を持っている障害者を捜しているが、なかなか見つからない」というのは、障害者雇用に消極的な医療機関が良く使う言い訳ですが、実際に国家資格を持っている障害者が現れた時、その者を受け入れる用意ができているかどうかは疑問でしょう。それ以前の問題として、現に雇用している医師や看護師などの医療スタッフが病気や怪我により障害のある状態になるリスクについて、あまり意識もされていないようです。

障害は先天的なものだけでなく、様々な疾病や事故に起因するものも多くあります。身近なものとしては、脳卒中や心疾患、糖尿病、がん、外傷、更にはうつ病等のメンタルな疾患でも、障害のある状態になることがあります。そのように病気や怪我の治療のため休職した医療スタッフが職場復帰する際、職場は受け入れるだけの環境になっているでしょうか。

障害の種類や程度が異なれば、仕事への支障の生じ方も異なってきます。例えば、医師が下肢障害で車いすを使う状態になったとしたら、診察室には入れても、手術を行うのは難しくなるでしょう。看護師が障害により患者さんを抱え上げることができなくなれば、直接的な身体看護を一人で行うことは難しくなるでしょう。従来は、こうした不都合があると、医師や看護師の業務は務まらないと判断されて、離職を余儀なくされる方も少なくありませんでした。

しかしながら、平成27年4月の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行と合わせて改正された障害者雇用促進法により、民間の医療機関を含む雇用事業者には、法的義務として「合理的配慮の提供」が求められるようになりました。「合理的配慮」の内容としては、ソフト面とハード面の両方の配慮が含まれます。ソフト面の配慮としては、本人の能力や経験を最大限活用できるように業務内容を見直し、配置部署の選択をすることもあります。外科系医師は手術ができなくても診察で能力を発揮できるでしょうし、看護師は医療相談などで患者さんの話を深く聴き、寄り添う看護を行うことも可能でしょう。ハード面の対応としては、障害が業務の支障とならないような施設・設備・機器等の面での工夫が求められます。このような「合理的配慮」についても、事業者に「過重な負担」となる配慮までは義務付けられていませんが、過重かどうかの判断は難しく、本人の意向を踏まえながら、可能な範囲でできるだけの配慮をすることが求められます。

具体的な事例に即してどのような配慮が効果的か、専門家の意見を聞くこともできます。地域障害者職業センターには、全国の数多くの事例に基づく豊富なノウハウが蓄積されています。相談すれば、障害の種別に即した具体的な対応方法を示してもらえるでしょう。また、地域障害者職業センターでは、うつ病の復職支援(リワーク)事業も行っていますので、うつ病で休職されている方の職場復帰に活用することもできるでしょう。

このように、医療機関で働いている医療スタッフが障害の状態になっても能力を活かせる職場環境づくりを進めれば、医療機関にとって貴重な戦力である専門職の離職を防止できるだけでなく、新たに障害のあるスタッフを雇用するのにも役立つでしょう。

(参考)職場のメンタルヘルス環境に及ぼす障害者雇用の効果

当ネットワークに参加している全国のメンバーから、医療機関の障害者雇用の事例について情報を提供いただき、「切出し業務の具体例」の内容を更新しました。

切出し業務一覧:医療系(概要)

切出し業務一覧:事務系(概要)

このコーナーでは「医療機関の障害者雇用ネットワーク」に参加されている皆さんの自己紹介メッセージを掲載しています。

掲載には、情報交換コーナーに自己紹介メッセージと付記して投稿いただくか、ネットワークの連絡先(info@medi-em.ne)にメールで送信いただければ、事務局で転載させていただきます。

皆様からの自己紹介メッセージの投稿を宜しくお願いいたします。

 

相沢  保  障害者雇用システム研究会 代表者【元東京労働局 渋谷公共職業安定所長】

赤川 義之    NPO法人ならチャレンジド 理事長

赤嶺 睦夫      沖縄障害者職業センター ジョブコーチ

礒本 伸彦  日本赤十字社武蔵野赤十字病院 人事課長

井田 雅弘   社会福祉法人電機神奈川福祉センター横浜南部就労支援センター センター長

市村たづ子 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく 就労支援コーディネーター

伊藤 恵美   JA愛知厚生連 海南病院 副看護部長

稲葉健太郎  名古屋市総合リハビリテーションセンター 自立支援部就労支援課長

乾 伊津子  特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワーク 理事

井原 佳代  社会福祉法人澄心 障害者就業・生活支援センタージョブあしすとUMA 所長

今村 博実  神奈川県立三ツ境養護学校 総括教諭

上野     弘     元 医療法人長久堂野村病院 運営支援部事務長

上村 差知  元 NPO法人コミュネット楽創 就業・生活相談室からびな 室長

江上 卓志       日本赤十字社 嘉麻赤十字病院 総務係長

江西   知子    大阪市立なにわ高等特別支援学校 進路指導部長

江原  顕   横浜市健康福祉局企画課企画係長

大塚ゆかり   元株式会社ジェイ・アイハートサービス(学校法人東京女子医科大学特例子会社)主任指導員

大橋 義治  学校法人聖マリアンナ医科大学人事部人事課主査

大濱 伸昭  医療法人社団心劇会 さっぽろ駅前クリニック北海道ワークサポートプラザ 所長

岡濱 君枝  埼玉県障害者雇用サポートセンター 統括マネージャー

岡山 弘美  奈良県立医科大学人事課障害者雇用推進係長

小川  浩  特定非営利活動法人ジョブコーチ・ネットワーク 理事長

小澤 信幸      東京都立志村学園進路指導部担当主幹教諭

押野 修司    埼玉県立大学作業療法学科 講師

小野 貴庸  医療法人社団福啓会 理事長

尾ノ上 弘賢   社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院 経営企画部人事室

笠井 利佳      医療法人社団ほっとステーション大通公園メンタルクリニックデイケアほっとステーション デイケア副主任

加藤 琴江  社会福祉法人名古屋市社会福祉協議会名古屋市障害者雇用支援センター 所長

金澤 秀人  医療法人徳洲会野崎徳洲会病院 事務次長

金子 壽男  社会福祉法人恩賜財団済生会 事業部社会福祉課長

北折健次郎  宮崎県赤十字血液センター 所長

北上 守俊  新潟リハビリテーション大学 助教

木村 尚美  医療法人社団宙麦会ひだクリニック 副院長

九島 多恵  大阪市立なにわ高等特別支援学校 教諭

栗原初津紀   横浜市立大学附属市民総合医療センター 障害者業務指導員

黒澤 賢治  愛媛県内子町教育委員会 主幹兼課長補佐

黒田 泰弘  独立行政法人地域医療機能推進機構 人事課長

小泉 聡子  国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 ジョブコーチ

小島 靖子  社会福祉法人ドリームヴイ理事長、就労支援センター北 代表

小林由美子  社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 理事長、 障害者就業・生活支援センター オープナー

酒井 京子    大阪市職業リハビリテーションセンター 所長

酒井 大介  社会福祉法人加島友愛会かしま障害者センター 館長

佐々木 修  公立学校共済組合中国中央病院 事務(課長)

佐藤 健太  独立行政法人地域医療機能推進機構東京新宿メディカルセンター 総務企画課職員係長

佐藤 友子  独立行政法人労働者健康安全機構 障害者雇用専門職

佐野 和明    障碍者就業・生活支援センターわーくわく 支援ワーカー

志賀 利一  社会福祉法人横浜やまびこの里 相談支援事業部長

首藤  学  株式会社ジェイ・アイ ハートサービス(学校法人東京女子医科大学 特例子会社)管理マネージャー

庄山 隆裕  JA三重厚生連 事業企画部長

菅野      智   埼玉県立小児医療センター 総務職員担当主査

菅原 敏弥  学校法人聖マリアンナ医科大学 人事部次長兼人事課長

関  宏之  社会福祉法人日本ライトハウス 常務理事

高井 敏子  社会福祉法人加古川はぐるま福祉会 加古川障害者就業・生活支援センター センター長(NPO法人全国就業支援ネットワーク代表理事)

高石 徳香  八幡浜・大洲圏域障がい者就業・生活支援センターねっとworkジョイセンター長

高橋 伸介    学校法人東京女子医科大学 人事課長

高森 祐樹    特定医療法人佐藤会弓削病院 精神保健福祉士

竹之内雅典  NPO法人障がい者就業・雇用支援センター 顧問、日本赤十字社障害者雇用促進アドバイザー

千田 若菜  医療法人社団ながやまメンタルクリニック 就労支援部門 主任

堤  一幸  淀川キリスト教病院 総務部総務課(薬剤搬送係)

坪内  純子    独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)玉造病院 看護部長

中原  さとみ    社会福祉法人桜ヶ丘社会事業協会桜ヶ丘記念病院 医療福祉部医療相談室

中村 淳子  社会福祉法人名護学院 障がい者就業・生活支援センターティーダ&チムチム センター長

中村 竜志  社会福祉法人 ヤマト自立センター障害者就業・生活支援センターSWAN センター長

南部 真吾    医療法人健康会 嶋田病院 総務課長

西田 尚美   公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 人事部人事労務課課長代理

庭山 瑞穂  学校法人聖マリアンナ医科大学人事部人事課障害者職業生活相談員

野路 和之  NPO法人わかくさ福祉会 障害者就業・生活支援センターTALANT センター長

野尻 直実   独立行政法人地域医療機能推進機構埼玉メディカルセンター 看護師長

蜂谷 裕利  M&T在宅クリニック 事務長

林  政徳  医療法人社団十善会 野瀬病院 法人本部長

原  智彦  東京都立青峰学園 進路指導担当主幹教諭

原田 文子  NPO法人KP5000代表理事

平井 佑希      東京都リハビリテーション病院 作業療法科

福田 一行  国立研究開発法人国立がん研究センター 人事課長

藤川 幸久  医療生活協同組合健文会 総務部長

藤木 則夫  新潟県佐渡市副市長【元独立行政法人地域医療機能推進機構 理事】

藤野浩一郎  一般社団法人戸田中央医科グループ 人事部副部長

藤村 昌之  神奈川労働局ハロ-ワ-ク川崎北 就職支援ナビゲ-タ-

渕野  豊    大阪市立なにわ高等特別支援学校 進路指導主事

古村ゆかり  日本医療科学大学 講師

保坂 幸司  NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 事務局長

堀江 美里  NPO法人WELS`新木場 就業・生活支援センターWEL‘STOKYO センター長

本田 隆光    社会福祉法人いわき福音協会 事業部長

松井 信乃  株式会社JR東日本グリーンパートナーズ(東日本旅客鉄道株式会社 特例子会社) 代表取締役社長

松為 信雄  文京学院大学人間学部客員教授(職業リハビリテーション学)

松木 優実  南医療生活協同組合南生協よってって横丁 主任

松浦  克  神奈川県立平塚養護学校 教諭

松島 身和  JA長野厚生連北アルプス医療センターあづみ病院 看護師長

皆見 一之  医療法人社団星晶会介護老人保健施設伊丹ゆうあい 総務

村田  誠    日本赤十字社長崎原爆病院 人事係長

望月 春樹  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構東京障害者職業センター所長

森屋 直樹  山梨大学 障害学生修学支援室

森山 弘枝   横浜市立大学附属市民総合医療センター 障害者業務指導員

八幡 勝也    医療法人住田病院 副院長

山田    雅彦 厚生労働省大臣官房審議官(人材開発、都道府県労働局担当【元障害者雇用対策課長】

吉田 昭一  一般社団法人日本海員掖済会宮城利府掖済会病院 総務課長

依田 晶男  医療機関の障害者雇用ネットワーク代表世話人

若杉 哲文  東京都教育庁特別支援教育推進室 就労支援員

和田 順平  社会福祉法人恩賜財団済生会静岡済生会総合病院 経営企画課

渡辺 歩美  大阪府立なにわ高等支援学校 進路主任

渡邉 利絵  公益財団法人健和会健和会大手町病院 整形外科医師

発達障害(知的障害を含む。以下同じ。)のある者にとって、医療機関とはどのような所だろうか。病気や怪我で医療機関を受診した経験は誰しもあるだろうが、その時の印象はどのようなものであったか。何をされるか分からず怖かったという者もいるだろうし、看護師が優しくしてくれて嬉しかったという者もいるだろう。このように患者として医療機関を利用するだけでなく、発達障害を持ちながら医療機関で働いている者も少なからずいる。「医療機関は医師や看護師などの専門職が働く職場だ」、「障害のある者にできる仕事などない」といった声も聞こえてきそうである。しかしながら、医療機関には障害のあるスタッフができる仕事が実はたくさん存在する。障害者雇用を積極的に進めている医療機関では、特定の業務に限らず、院内の様々な部門から仕事を切り出している。実際に発達障害のある者が従事している仕事は、「事務系の業務」と「医療系の業務」に分けられる。

「事務系の業務」には、医療以外の他の産業とも共通するものが多い。例えば、郵便物を部門ごと仕分けて配達したり、郵便物の発送、文書や文具等の院内各部門への搬送、文書やデータの入力、資料のコピーや封入、紹介状等のスキャンニング、部署印の押印といった仕事がある。このほか、カルテ庫の文書整理、廃棄文書の回収、シュレッダー処理、会議室の設営と清掃、敷地内の植栽の管理、敷地内外の清掃などが行われている。

「医療系の業務」は、まさに医療機関ならではの業務であって、仕事の種類も量も相当なものが院内にはある。この分野の職域をどれだけ開発できるかが、医療機関の障害者雇用を進める上での鍵となっている。看護部門には、病棟のベッド清掃や消毒、ベッドメイク、ストレッチャー・点滴台・車椅子の清掃、ラウンジ清掃などの仕事がある。手術室の清掃や内視鏡の洗浄といった高度な作業に従事している者もいる。看護部門の仕事の中には、看護師が仕事しやすいよう事前の準備作業を行うものもある。点滴の注射針を固定するテープカットの仕事の需要は多く、注射器や薬剤の入ったパックを一つ一つに切り離す作業、処置セットの袋詰め、シートや袋の折り畳み作業など、様々な軽作業がある。個々の仕事量は必ずしも多くないため、午前中はベッド清掃で午後はテープカットなど、時間帯により様々な仕事をこなしている。

薬剤部門では、薬品への注意事項のシール貼り、処方箋や薬剤伝票の整理、薬剤カートの運搬、空き箱のバーコード読み取りなど、様々な仕事がある。こだわりのある特性を生かして、薬剤用ろ紙に細かく折りを入れる作業を丁寧にこなす者もいる。検査部門では、計量カップへのシール貼り、キャンセルされた未使用のアンプルのシールはがし、病理標本の並べ替えなどの業務がある。人間ドック部門では、受診者に送付する検査キットや問診票等の封入やデータ入力などの仕事に従事している。リハビリ部門では、作業療法のためのテーブルや椅子出し、リハビリ用具や材料の準備などの仕事もある。

発達障害のあるスタッフには、一般の職員と同じ仕事の処理が難しい場合もあるため、業務を比較的単純な作業に再編成する「仕事の切り出し」が必要となることが多い。障害者雇用が進んでいる医療機関では、障害のあるスタッフの仕事を切り出す過程で、業務の見直し・再編が進み、全体として業務の効率化が進む傾向がある。医療機関では看護師や薬剤師等の多くの専門職が働いているが、専門職が毎日行う仕事の中には、国家資格を有する職員が行う必要のないものも含まれている。障害者雇用を進めることで、こうした作業から専門職を解放できれば、国家資格を活かす業務に専念できるため、結果として障害者雇用が専門職種から歓迎される現象も生じている。障害者雇用によって業務の効率化が進み、職場の働く環境が改善されれば、職員の満足度も高まり、看護師等の離職も減り、新たな人材確保もしやすくなるという経営上のメリットも認識されてきた。

こうした効果を得るには、障害のあるスタッフの特性と、従事する仕事の内容やスタッフを受け入れる職場の体制を見極めた、個別のマッチングが不可欠である。そのため医療機関では、障害の特性や配慮の方法を学んだり、採用前の職場実習やジョブコーチ支援を受けるなど、外部の就業支援機関のサポートを適宜活用している。特に、障害のあるスタッフを受け入れる現場において、採用候補者に予め職場実習を受けてもらうことは、仕事との適性を確認できるだけでなく、受け入れ側の理解を深める意味でも効果的である。働くスタッフの側でも、仕事や職場が自分に合ったものか事前に確認できるため、職場定着につながりやすい面がある。外部の就業支援機関は、仕事の切り出し、分かりやすい作業手順の作成、業務に即した人材捜し、職場実習での確認、仕事習得や職場定着等の支援のほか、就業継続が困難な場合の退職支援も行うため、支援機関のサポートを受けていることを採用条件にする医療機関もある。仕事のストレスが体調に影響したり、日常生活の変化が仕事に影響するなど、就業面と生活面は裏表の関係にあることから、地域の中に就業面と生活面の両方を支える体制が構築されると、医療機関としても雇用を進めやすい。

医療機関の仕事には、各病院で基本的な違いはないため、ある病院で障害のあるスタッフが力を発揮できた業務は、他の病院でも同じように切り出すことが可能である。この点は、他の産業分野とは異なる医療分野の特徴であり、成功事例を医療機関間で共有することにより、障害のあるスタッフの職域を広げることができる。先進事例に学びながら新たなモデル事例を作り出し、情報発信する医療機関が増えていけば、医療現場の障害者雇用が大きく前進することも期待できる。具体的な雇用事例は、「医療機関の障害者雇用ネットワーク」のホームページ(http://medi-em.net/)に掲載されているので、こうした事例を参考にして、障害者雇用が進んでいない医療機関に働きかけることも効果的と思われる。

【発達障害白書2016年版から】