新着情報

医療機関での障害者雇用の成功事例を見ると、共通点が浮かび上がってきます。それは、障害者雇用を事務部門だけで考えるのではなく、院内最大の組織である看護部門をしっかり巻き込むことであり、それこそが障害者雇用の成否の鍵となっています。障害のあるスタッフが院内で担当する仕事を切り出す企画段階から、看護部長等に加わってもらい、病棟や外来等で看護師の業務負担を軽減するためにして欲しい業務を提案してもらい、それを障害のあるスタッフの仕事としていけば、「職員に歓迎される障害者雇用」が実現します。仕事の出来栄えを見て評価してもらえば、院内から新たな業務が次々に提案されてきます。障害のあるスタッフが行える仕事は、医療機関内には限りなく存在するというのが、障害者雇用の進んでいる先行病院の皆さんの共通した声です。

法定雇用率が引き上げられてきた中で、医療分野以外では大手企業も積極的に障害者雇用を進めてきたため、障害者の労働市場は今や「売り手市場」となっています。障害の種別でも過去10年ほどで大きな変化が生じており、ハローワークを通じた新規就職者の障害別では、既に精神障害が身体障害を上回る状況となっています。こうした状況の下では、身体障害しか考慮に入れていないと、障害者雇用の人材確保は極めて厳しくなります。障害の種別を広げて、知的障害や精神障害(発達障害を含む)も視野に入れた人材確保を行うことで、法定雇用率の達成も現実味を帯びてきます。その際、障害特性を踏まえた業務の切り出し、仕事の指示方法、環境上の配慮などにおいて、医療機関内にはノウハウがない場合が大半でしょうから、外部の公的な就業支援機関を活用することが有効です。

(参考)障害種別の就職件数(平成27年度)

「うちの病院には障害者ができる仕事がない」と考えている医療機関の経営者も多いと思います。このように言われるときには、障害者に対してどのようなイメージを持っておられるのでしょうか。上下肢の障害、聴覚や視覚の障害、内部障害、知的障害や精神障害など、障害にもさまざまな種類があり、仕事をする上で抱えている困難さも一律ではありません。

車椅子の使用者にはハード面の環境整備が効果的であるなど、障害に配慮した対応をすることで、障害のない場合と同様に能力を発揮できることがあります。こうした障害別の配慮については、既に他の産業分野での膨大なノウハウの蓄積に基づいて、様々な障害者雇用マニュアル等が作成されています。これらを活用することで、障害のあるスタッフが医療機関の中で担う仕事を見出すことも可能です。

「清掃、洗濯、厨房の食器洗いといった仕事は、既に外注しているので」という声もよく聞きます。これは知的障害や精神障害のある方を雇用される場合を想定された意見のようです。確かに、知的障害や精神障害のある方が、これらの業務に従事してきた例は多いかと思います。しかしながら、医療機関の中には、これ以外に知的障害や精神障害のある方ができる仕事がたくさんあります。その中には、「職員に歓迎される仕事」が数多く含まれています。こうした職域を開拓するためには、作業の工程を整理して、障害のある職員でも無理なく確実に実施できるよう業務を切り出す作業が必要です。

障害のあるスタッフに行わせるために外注済みの仕事を内製化しても、職員は誰も歓迎しないでしょう。現在、職員が片手間的に行っている作業を障害のあるスタッフの仕事として再編するからこそ、負担から解放される職員に歓迎される障害者雇用が実現できるのです。

採用前に職場実習で確認していても、必ずしも十分な評価ができるとは限りません。雇用した医療機関の側が努力して、本人も頑張っても、その職場で働き続けることが本人のためにならない場合もあります。

そのような場合には、いったん職場を離職して、本人の状況に適した先に移ることが適切です。移る先が他の職場でもデイケアでも、本人にとって望ましい場所につなげるという視点で対応することが必要です。こうした役割は、雇用の当事者である医療機関では担うことはできません。地域の就業支援機関が継続的に支援を行うなかで対応するからこそ、円滑な離職・転職も可能になります。

一般の職員でも多かれ少なかれありますが、特に、知的障害や精神障害(発達障害を含む)のある方では、仕事上のストレスが家庭で爆発したり、日常生活の乱れが仕事に影響するなど、就業面と生活面が表裏の関係にあります。このため、長期にわたり安定した職業生活を維持するためには、病院側の雇用管理に加えて、日常生活面を支える支援機関の存在が必要となります。

特別支援学校の卒業生や移行支援事業所から就職した者に対しては、それぞれの施設から概ね3年間は定着支援の訪問等が行われることが想定されていますが、職業生活は3年で終わるものでもなく、上司や周りの職員が異動したり、仕事の内容が変わることもあり、家族が高齢になったり亡くなったりすれば、当然ながら職業生活にも影響が出てきます。

このような時に力になってくれるのが、地域の就業支援機関です。就業支援機関に登録されている者に対しては、支援機関が日常生活面の支援を行っており、職場と家庭との調整も含めて対応してくれます。長く安定した雇用をしようと考えれば、地域の就業支援機関に登録されていることを採用の条件にすることが望ましいと言えます。

事前の職場実習を行った場合でも、仕事の質や速度を高めるために作業工程を変更することが必要になったり、当初予定した業務以外の業務に変更するような場合もあります。こうした際には、外部の支援機関からジョブコーチを派遣してもらうことが可能です。

ジョブコーチは、採用直後だけでなく、新たな仕事を開始する際にも利用できますが、トータルで派遣日数に上限が設けられています。

採用については、面接だけでなく判断するのではなく、職場実習の状況も踏まえて判断することが望まれます。職場実習の結果を踏まえ、より適性のある業務で採用する場合もあります。

採用に当たっては、雇用契約を締結することになります。雇用の形態としては、常勤職員としての雇用のほか、非常勤職員としての雇用であっても、勤務時間に応じて雇用率にカウントできます。また、賃金については、障害があることのみで一般の職員と差をつけるのは適切ではありませんが、従事する業務の内容(補助業務等)に応じた賃金表や賃金単価を設けている例も多いです。

医療機関で障害者雇用を進める上では、障害者を雇用することの意義、障害の特性を踏まえた指示の仕方、周囲の配慮等について、職員に対する事前の意識啓発が必要です。このことは、障害のあるスタッフが働く特定の部門だけでなく、医療機関全体に対して行う必要があります。外見上は分かりにくいですが、コミュニケーション等に支障がある者も多く、障害の特性を理解しないままだと、思わぬトラブルが生じることもあるからです。

家族等身近に障害のある方がいればともかく、医療スタッフが一般的に障害のことを理解しているわけではありません。しかしながら、医療専門職としての知識が基礎にあるので、理解はとても速い印象です。

職員への意識啓発のタイミングとしては、職場実習を受ける職場では職場実習に先立ち行い、それ以外の職場では実際に採用が決まって働く迄に行うのが望まれます。職員研修等の機会を設ければ、地域の就業支援機関から講師を派遣してくれるでしょう。

ところで、院内の意識啓発と言っても、実際上一番効果的なのは、障害のあるスタッフが現場で働く姿を見てもらうことに尽きます。きちんと挨拶をしたり、生真面目なほどの丁寧な仕事ぶりに接すると、応援団になる職員も多く現れてきます。先行事例では、職場に雰囲気がよくなったという声も多く聞きます。こうした障害者雇用のもたらす効果についても、先行事例の紹介なども含めて職員に伝えておくと効果的です。

身体障害とは異なり、知的障害や精神障害(発達障害を含む)は障害の状況が外見からは判断できないため、面接だけで採用を決めるのにはリスクを伴います。このため、一定期間の職場実習を経て、仕事や職場への適合性を見たうえで採用を決めると、現場の職員の納得感も得やすいです。雇用する側だけでなく、雇用される障害者にとっても、自分に向いている仕事なのか、長く働けそうな職場なのかを事前に判断できるため、定着率も高くなる傾向があります。

職場実習には、ハローワークが窓口となり事業所と本人の双方に訓練費や手当が支給されるもの(職場適応訓練)もありますが、一般的には就業支援機関が実施主体となり、訓練費も手当も支給されませんが事故保険等に加入しているタイプの職場実習が行われています。実習期間としては、実習手当が支給されないことを踏まえ、1週間程度で行われるものが多いです。ハローワーク以外の実習を受ける場合は、その旨を予めハローワークに伝えておくと良いでしょう。

障害者を募集する際、基本となるのは、ハローワークに求人内容を正確に詳細に伝えるとともに、ハローワークから求職者情報、支援機関情報(評判)等を得るおとで、いわばハローワークを使いこなすことです。しかしながら、障害者雇用が「売り手市場」の現在では、ハローワークに求人表を提出して、後は適切な人材紹介を待つだけでは、必ずしも適切な人材が得られない場合もあります。

地域によって多少事情は異なりますが、ハローワーク以外の主な人材確保ルートは2つあります。第1のルートは、特別支援学校の在学生の現場実習を受けることで開拓されるルートです。学校では、社会に出て実際に企業で働く力をつけるために現場実習や就業体験を教育活動の中で計画し、卒業後の適切な進路選択ができるようにしています。実習を受け入れることにより、障害者雇用に向けた情報収集と体験ができるので、時間はかかりますが、比較的安定した人材開拓ルートとなります。法定雇用率が引き上げられる平成30年に向けて、今から準備を始める医療機関には、お勧めのルートです。

第2のルートは、地域の就業支援機関からの職場実習を受けることで開拓されるルートです。この10数年の間に、ハローワーク以外に障害者の就業支援機関が整備されてきたことで、事業者が安心して雇用できる環境が地域の中に整ってきました。障害者の就業支援機関としては、都道府県単位で設置されている障害者職業センターのほか、国の制度として2次医療圏単位で整備される障害者就業・生活支援センター(全国に325か所)、都道府県や政令市等の単独事業で設置されている障害者の就業支援機関等があります。これらの支援機関に登録されている障害者の中から、医療機関で切出した業務に従事できそうな者を捜してもらいます。各センターは就労移行支援事業所等との連携もあるので、それらの施設の利用者の中からも適切な人材を見出してくれるでしょう。もし、就業支援機関の側で適切な人材がいて、(4)の職場実習を受け入れるようなら、その旨を予めハローワークに伝えて留意点等を相談しておくとよいでしょう。

ハローワーク以外の就業支援機関のルートは、採用後の定着支援の観点からも重要な意味を持っています。特に、知的障害や精神障害(発達障害を含む)のある方が働く上では、生活面の安定が必要です。仕事の面は職場で見るにしても、生活面まで雇用する側が気を配ることは難しく、適切でない場合もあります。障害者就業・生活支援センター等の就業支援機関は、家族との調整を含めた生活面の支援も担う機関なので、雇用する側との間で適切な役割分担が可能となります。最近では、民間の事業所でも、障害者を募集する際に地域の就業支援機関に登録されていることを条件にするところが増えています。

このほか、障害者能力開発施設でも、一定期間の訓練後に職場実習を踏まえて就職先の開拓が行われています。また、障害者福祉サービスの一類型としての就労移行支援事業所では、一般事業所での就労に向けて、訓練と職場の開拓、職場への定着支援等が行われますが、一般就労への移行率は施設によって相当の格差があるので確認が必要です。