関東地方にある国立研究開発法人運営の病院を訪ねたときのことです。医療安全室の看護師長が「医療安全ニュース」の最新号を示しながら、「いつも障害のあるスタッフの皆さんに助けてもらっているので、そのことを書かせてもらいました」と嬉しそうに教えてくれました。A3版のニュースの一番下には、「Special Thanks:このニュースの折り畳みおよびインシデント防止目標ポスターのパウチは、ビジネスサポートセンターの皆様にご協力いただいております」と書かれています。一所懸命に働く障害のあるスタッフに対する感謝の声は、院内のあちこちから聞こえてくるそうです。
新着情報
このコーナーでは、障害者雇用を進めている医療機関でお聞きしたエピソードの中で、他の医療機関にもお伝えしたい「元気の出るお話」をご紹介していきます。皆さんからも是非紹介したいような「元気の出るお話」があれば、以下までご連絡ください。info@medi-em.net
障害者雇用を開始したことにより、職場の雰囲気がよくなったという声はあちこちで聞かれます。「おはようございます」「こんにちは」という元気な挨拶、訪問先に入退出する際の「失礼します」「有難うございました」という礼儀正しい振る舞い、ひたむきに働く姿勢は、ともすれば障害のない職員には見られない姿かもしれません。「彼らの姿に見習ってほしい」と言う管理職員もいるくらいです。
身近なところで障害のあるスタッフが働くことにより、いつの間にか他の職員の働く姿勢にも変化が生じ、職員間のコミュニケーションも良くなり、雰囲気の良い職場に変わっていくことが多いようです。
障害のある職員は、障害のためにできる仕事の種類には限界があります。身体障害の場合は、できる仕事のイメージも持ちやすいようですが、知的障害、精神障害、発達障害の場合には、どんな仕事をしてもらえるのか、最初は戸惑うこともあるかと思います。それでも障害の特性を理解し、個人の能力を最大限生かす工夫をすると、驚くほどの能力を発揮し、医療機関にとってなくてはならない存在になっていくことも多いようです。
各個人の特性を踏まえ、最大限の能力を発揮してもらえるようにすることは、障害のあるなしに関わらず人事の基本でしょうが、障害のあるスタッフはもともと能力に制限があるだけに、こうした「人を活かす」ための配慮が不可欠であり、その成果を共に喜び合える点が特徴的だと思います。
障害のあるスタッフに対して、周囲の職員も同様の配慮をしていく中で、一人一人の職員の能力を見出し、それを伸ばし育てていく「人を活かす組織文化」が自然な形で定着していくことは、障害者雇用のもたらす予期せぬ効果とも言えるでしょう。
障害者週間「連続セミナー」(主催:内閣府)が12月5日(土)から6日(日)まで、中野セントラルパークサウス コングレスクエア(東京都中野区)にて開催されます。
その一環として、12月5日(土)12時~14時に独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の主催で「精神障害者雇用は今!~精神障害者の職域拡大の可能性について~」と題する公開座談会が開催されます。具体的には、専門的な職種が主となる医療機関において、創意工夫により精神障害者が新たな職務に従事している事例を紹介し、その事例を通じて職務創出のノウハウなどについてのディスカッションを行うものです。
医療機関における雇用事例として、当ネットワークホームページの優良事例で紹介している駒木野病院(東京都八王子市)と埼玉県立循環器・呼吸器病センター(埼玉県熊谷市)が登壇します。当ネットワークからも、代表世話人の依田が参加し、他の病院での雇用事例等についても紹介する予定です。
参加申し込みは、以下の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページからお願いします。
http://www.jeed.or.jp/disability/data/works/zadankai.html
2006(平成18)年12月に国連で採択された障害者権利条約は、障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約であり、我が国は2007(平成19)年に署名しました。同条約の批准に向けた法整備の一環として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が制定されるとともに、労働・雇用分野については「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正が行われました(2013(平成25)年6月成立)。こうした法整備を経て、我が国は2014(平成26)年1月20日に障害者権利条約を批准し、同年2月19日から同条約は我が国に効力を発生しました。
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」では、雇用分野以外の全般について「差別的取り扱いの禁止」を法的義務として課していますが、「合理的配慮の不提供の禁止」は民間事業主には努力義務を課すにとどめています。
これに対して、雇用分野については、「障害を理由とする差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供義務」がいずれも事業主への法的義務として課せられています。
労働・雇用分野での具体的な措置については、以下の2つの指針で示されています。
(参考1)「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事 業主が講ずべき措置に関する指針」(差別禁止指針)
このほか、Q&Aや事例集も示されているので、参考にできます。
(参考3)「障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A)」【第2版】
(参考4)「合理的配慮指針事例集」【第3版】
こうした指針等を参考にすることは必要ですが、いずれにしても自らが経験する中で個別具体的な場面での適切な対応を学んでいく姿勢が大切です。
10月7日(水)13時~17時、愛媛県の西予市宇和文化会館で開催される「南予地域就労支援ネットワーク連絡会」主催の勉強会に「医療機関の障害者雇用ネットワーク」から講師として参加します。
10月20日(火)13時~15時30分、さいたま市の浦和コミュニティーセンターで開催される埼玉県(埼玉県障害者雇用サポートセンター)主催「埼玉県高齢・障害者雇用ワークフェア2015」の「障害者雇用サポートセミナー」に「医療機関の障害者雇用ネットワーク」から講師として参加します。
法定雇用率制度と裏腹の関係ですが、法定雇用率未達成の事業者には、雇用不足数1名あたり月5万円(年間60万円)の納付金を納付する義務が課せられています。納付金を納付したからといって、雇用率未達成に伴う行政措置(雇入計画策再命令、事業者名公表)が免除されるものでもなく、単純に資金が外部に流出しているわけです。大規模な病院で障害者を意識的に雇用してこなかったところでは、年間1,000万円を超える納付金を払うことにもなります。
納付義務は、これまで常時雇用する職員が200人を超える事業者(法人単位)に限られていたのが、平成27年4月から100人を超える事業者にまで対象が拡大されました。このため、新たに納付金を納付しなければならない医療機関も増えています。
障害者を雇用するのには人件費等のコストが伴いますが、上記のように納付金が削減されることに加え、ハード面の環境整備や支援者の配置等に対する助成制度もあります。これらの支援措置は医療機関ではあまり利用されていませんが、上手に活用すれば負担は更に軽減できます。
なお、障害者雇用で切り出される業務は、一般的には診療報酬で評価されず(つまり収入面では貢献しない)、業務全体の効率化が進むことを通じて経営に貢献すると考えられています。例外的に、障害のある職員(非常勤を含む)を病棟に配置して看護師の負担を軽減する業務に従事させる場合は、看護補助者として「急性期看護補助体制加算」や「看護補助加算」の必要人数にカウントできることがあります。この場合は、障害者雇用を進めることが診療報酬の加算の取得や維持にも貢献することになります。